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2017.06.11

平山夢明『大江戸怪談 どたんばたん』 帰ってきた江戸の怪談地獄絵図

 かつて実話怪談界を震撼させた平山夢明、久々の時代怪談集であります。以前竹書房から刊行された『大江戸怪談草紙 井戸端婢子』収録作の一部再録と、雑誌連載及び書き下ろしで構成された、全33話の怪談集です。

 ここしばらく実話怪談とはご無沙汰している私ですが、かつて平山夢明がデルモンテ平山として活躍していたころは、大いに作者の怪談に震え上がらされたものでした。
 そんな中刊行された『井戸端婢子』は、平山実話怪談のテイストを濃厚に漂わせた時代怪談集として、大いに楽しませていただいたものの、その後続編はなく、残念に感じていたのですが……

 再録が1/3程度とはいえ、ここにこうして平山時代怪談が復活したのは欣快至極。陰惨なグロ怪談あり、狂気に満ちた人間地獄あり、ちょっとすっぽぬけたような奇談あり……
 巻頭の作者の言では、杉浦日向子の『百物語』に幾度も言及していますが、怖さ面白さという点ではそちらに並びつつ、作者でなければ描けないような世界がここには展開されています。


 短編怪談集のため紹介が難しいところですが、特に印象に残った作品は以下の四作でした。

『地獄畳』:賭場の借金で追い詰められた男が狙った按摩の隠し金のおぞましい隠し場所は……
 とにかく、登場人物がほとんど全員ろくでなしという恐ろしい作品。その上でラストに描かれる怪異のインパクトも凄まじい。

『魂呼びの井戸』:死にかけた人間を生き返らせると評判の長屋の井戸に、ある晩、瀕死の娘を連れて現れた女が現れるが……
 平山作品でしばしば描かれる、人間の半ば無意識の無関心さ、残酷さを浮き彫りにする一編。それだけに身近な嫌悪感があります。

『木の顔』:吝嗇な主人にこき使われていた鬱憤を、木に浮かび出た顔を虐め抜くことで晴らしていた少女が見たものは……
 こちらも人間の残酷さを容赦なく描き切った物語。一種の因果応報譚と言えるのかもしれませんが、しかしそれをもたらしたものを考えれば複雑な気持ちにならざるを得ません。

『しゃぼん』:辛い奉公を続ける少女に、不思議なシャボン玉を見せてくれた女。ある日変わり果てた姿で少女の前に現れた女が、シャボン玉の中に見せたものは。
 どこかノスタルジックで、そして物悲しい物語を描きつつ――ラストで読者を突き落とすその非情ぶりに愕然とさせられます。


 その他、これは『井戸端婢子』に収録されていた『肉豆腐』と『人独楽』も、相変わらず厭な厭な味わいで、あっという間に読める分量ながら、しかし読み応えは相当のものがある一冊であります。

 個人的には、平山怪談の――いや平山作品の基底に流れる、人を虐げる世の不条理に対する静かな、そして激しい怒りというべきものが、少々薄いような気もしましたが、その辺りは感じ方かもしれません。
(その意味からも『魂呼びの井戸』は、やはり出色と感じます)

 何はともあれ、ここに復活した平山時代怪談。今度は途切れることなく、書き継がれていくことを期待する次第です。


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