« 室井大資&岩明均『レイリ』第3巻 レイリの初陣、信勝の初陣 | トップページ | 渡辺仙州『封魔鬼譚 2 太歳』 怪奇の事件と彼自身の存在の揺らぎと »

2017.06.13

平谷美樹『でんでら国』(小学館文庫)の解説を担当いたしました

 約一年ぶりのお仕事の報告であります。今月6日に小学館文庫から発売された平谷美樹『でんでら国』の解説を担当いたしました。2015年に単行本で発売された作品が、上下巻で文庫化されたものです(解説は下巻に収録)。幕末の東北を舞台に、老人と武士が繰り広げる攻防戦を描いた快作であります。

 東北の小藩・外館藩の外れに位置する大平村。そこでは60歳になった老人は村を離れ、御山参りに行くという風習がありました。御山参りと言いつつも帰ってきた者のいないその風習を、周囲の村の者たちは棄老、すなわち姥捨と見做して嫌悪していたのですが……

 しかしそこには大きな秘密がありました。実は老人たちは、山の中で老人たちだけの国を作り、そこで自給自足、助け合いの平和な暮らしを送っていたのであります。
 その国の名は「でんでら国」――そしてでんでら国の老人たちは、自分たち自身だけではなく、大平村の人々の助けにもなっていたのであります。

 しかし財政難にあえぐ藩が大平村の豊かさに目をつけたことから、老人たちの桃源郷に危機が迫ります。
 別段廻役(犯罪捜査を役目とする役人)の探索が迫り、徐々に追い詰められていくでんでら国の人々。しかし武士たちの苛斂誅求を逃れてここまで作り上げてきた楽園を、奪うことしか知らない武士に明け渡すわけにはいきません。

 かくて老人たちは、知恵を絞ったあの手この手の作戦で、武士たちを迎え撃つことに……


 『でんでら国』を読んで以来、一体何度このあらすじを書いただろう――と個人的に感慨深くなってしまうのですが(初読時のブログと、『この時代小説がすごい!』2016年版、今回の解説とこの記事で計4回!)、しかし書くたびにワクワクする気持ちが湧いてくるのもまた事実であります。
 元々大ファンの作家の作品なのは間違いありませんが、しかしそれでもどれだけこの作品がが好きなのか――と可笑しくなったりもしますが、それだけ魅力に富んだ作品であることは間違いありません。

 弱い者たちが知恵と勇気で強い者たちを打ち破る痛快さがその理由の最たるものかもしれませんが、それだけではなく、でんでら国というシステムの独創性や、そこに関わる人々のドラマの豊かさ、そしてどんでん返しの連続のストーリー展開の面白さ――本作の魅力は多岐に渡っており、読む人によって異なる魅力を感じるのではないかとも感じます。

 そうした作品には、当然ながら書くべきことは様々にあります。この点について掘り下げるべきだろうか、あの作品にも触れておくべきだろうか……
 色々と悩みましたが、本作はこの数ヶ月に渡って開催されたKADOKAWA・徳間書店・大和書房・小学館の四社合同企画のラストを飾るということで、本作自体の解説であると同時に、一種総論的な内容とさせていただきました。


 私は初読時から、本作はある意味最も作者らしい作品であると考えています。それは、「奇想」と「気骨」と「希望」という作者の作品に通底する三つの要素が、最も色濃く表れていると感じられたからにほかなりません。
 老人たちの桃源郷たる「でんでら国」という奇想天外な舞台設定の「奇想」、武士という支配階層に一歩も引かず立ち向かう老人たちの「気骨」、そして攻防戦の先に浮かび上がる和解の「希望」――その三つの要素が。

 この三つの要素については、このブログ以外でも事あるごとに触れてきたことでもあり、繰り返すべきかは悩ましいところではありました。。
 しかし上で述べたようなタイミングということもあり、平谷作品の一種の総括として、そしてこの企画などをきっかけに初めて作者の作品に触れた方への水先案内として、敢えて取り上げさせていただいた次第です。


 いやはや、色々と書いてしまいましたが、解説の解説というのは野暮の極みであります。
 私の解説などは抜きにしても、心からお勧めできる名作だけに、この機会にぜひご一読を(既に単行本でご覧になっている方も再読を)お願いする次第であります。


『でんでら国』(平谷美樹 小学館文庫全2巻) 上巻 Amazon/ 下巻 Amazon
でんでら国 上 (小学館文庫)でんでら国 下 (小学館文庫)


関連記事
 『でんでら国』(その一) 痛快なる老人vs侍の攻防戦
 『でんでら国』(その二) 奇想と反骨と希望の物語

|

« 室井大資&岩明均『レイリ』第3巻 レイリの初陣、信勝の初陣 | トップページ | 渡辺仙州『封魔鬼譚 2 太歳』 怪奇の事件と彼自身の存在の揺らぎと »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/65404345

この記事へのトラックバック一覧です: 平谷美樹『でんでら国』(小学館文庫)の解説を担当いたしました:

« 室井大資&岩明均『レイリ』第3巻 レイリの初陣、信勝の初陣 | トップページ | 渡辺仙州『封魔鬼譚 2 太歳』 怪奇の事件と彼自身の存在の揺らぎと »