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2017.07.24

玉井雪雄『本阿弥ストラット』第1巻 光悦の玄孫が招く先の読めない冒険

 『ケダマメ』『怨ノ介 Fの佩刀人』と、最近はユニークな時代漫画を次々と発表している玉井雪雄の最新作は、またもや個性的極まりない作品。天下人家康に唯一逆らった男・本阿弥光悦の玄孫、本阿弥光健が、「目利き」の力で周囲を波乱に巻き込んでいく、先の全く読めない物語であります。

 目覚めてみれば、臭く真っ暗な船倉で縛られていた光健。彼は、女郎屋の代金を踏み倒したおかげで売り飛ばされ、最悪の人買い商人・バムリの権藤親方の奴隷船に乗せられていたのでありました。

 そんな彼と同様に船倉に押し込められていた人々は、しかしごく一部を除き、彼のことを気にしようともしなければ言葉も発しない無気力な人々。
 あらゆる共同体から捨てられ、人別を失った「棄人」である彼らを前にして、光健は、手を縛られたままでも、自分の目利きで船を丸ごと手に入れることができると豪語するのですが……


 刀剣の目利きをはじめ、書・画・茶と様々な古今の芸術に通じ、安土桃山から江戸時代初期にかけて屈指の文化人として知られた本阿弥光悦。
 本作はその光悦を、物だけではなく、人に対しても優れた目利きの力を持ち、その能力で激動の時代を生き抜いてきた人物として描きます。

 そして本作の主人公・光健もまた、その能力を継ぎ、人の目利きにかけては絶対の自信を持つ男。
 同じ船にいた棄人の一人に対し、新たな名前(銘)を与えただけで、彼らに希望の灯を灯し、それをきっかけに大きく事態を動かしていくという冒頭の展開は、彼の力のなんたるかを示していると言えるでしょう。

 しかしさらに本作を面白くしているのは、彼は目利きを行い、相手の価値を見抜く(そして自覚させる)のみであって、人々を完全にコントロールするわけではないという点。
 そのため、価値を見抜いた人物がどのような行動を起こすか、それは彼の予想の範囲外なのであります。

 そう、その人物が起こした行動がもとで、素手で人間を引き裂くような人間凶器が覚醒したり、幕府が絡んだ秘密のプロジェクトの存在が明かされたりするというようなことは……


 というわけで、一話進むたびに状況が刻一刻と変わっていく、全く先が読めない展開の連続に、現時点では内容の評価自体が難しい作品ではある本作。
 しかしその展開自体に退屈させられことがないのはもちろんのこと、ここで描かれる物語世界の一端が非常に魅力的であることは、間違いありません。

 この先、光健は棄人に何を見出すのか、そして何よりも彼が自分自身に何を見出すのか――我々も、それをこの作品から見出したいところであります。


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