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2017.07.09

碧也ぴんく『星のとりで 箱館新戦記』第1巻 少年たちの目に映る星々たちの戦い

 その作家活動の大半を通じて時代もの、歴史ものを描いてきた碧也ぴんくの最新作は、土方歳三と五稜郭の戦いを題材とした作品。作者は、以前「週刊マンガ日本史」シリーズでも土方歳三を描いていますが、そちらとは全く異なる切り口となる、新たな土方の物語、五稜郭に集う面々の物語であります。

 さて、最初に白状しておけば、私は本作について、この単行本化まで、土方歳三と五稜郭の戦いを描くという以外の知識を仕入れないでおりました。そして本書を手にしてみれば大いに驚かされたのですが――その理由は、本作の物語の視点の置き方にあります。

 そう、この第1巻において描かれるのは、土方から見た箱館戦争ではありません。
 この第1巻の時点で物語の中心となり、土方を、やがて五稜郭に集う人々を見つめるのは、土方の周囲に在った少年たちなのであります。


 新選組の末期に隊に加わった少年たち――市村鉄之助、田村銀之助、玉置良蔵、上田馬之丞(鏡心明智流ではない方)。
 元服したかしないかの年齢であり、兄らの入隊に伴って新選組に加わった彼ら四人は、それから間もないうちに、戊辰戦争の激動に飲み込まれることとなります。

 土方の指示により、仙台に向かったものの、新政府に抵抗を続ける奥羽諸藩も決して一枚岩ではなく、苦しい道のりを強いられる少年たち。何とか土方と合流した彼らは、土方がさらなる北上を――蝦夷地を目指していることを知ります。
 蝦夷地へ向かう新選組から抜ける者、加わる者、様々な人々の運命が交錯する中で、少年たちは自分の意思で、土方とともに蝦夷に渡ることを決意することに……


 戊辰戦争の、新選組の、そして土方歳三の最期を飾る戦いとしてこれまで無数に描かれてきた箱館戦争。フィクションの中でのその戦いは、土方はもちろんのこと、榎本武揚や大鳥圭介といった、歴史上の有名人たちが中心となって描かれてきました。
 当然本作もそうなるかと思いきや、少年たちの視点で、ということで大いに驚かされたのはすでに述べたとおりですが、本作の視点の独自性は、その点だけに留まりません。

 本作において描かれるのは、星のとりで――五稜郭に集った綺羅星の中心で一際輝く星だけではありません。その周囲で密やかに、しかし激しく輝いた星々をも、本作は描き出すのです。

 新選組でいえば、山野八十八、安富才助、蟻通勘吾、野村利三郎に相馬肇といった面々。さらに陸軍隊の春日左衛門、額兵隊の星殉太郎、さらにはフランス軍人ブリュネと彼の通訳であった田島応親(金太郎)までと、多士済々。
 正直に申し上げれば、その存在を知らなかった人物もいたのですが、しかしそうした人々を、本作は実に魅力的に描き上げるのであります。

 そんな中で個人的に特に印象に残ったのは、唐津藩主の子であり、老中小笠原長行の甥である三好胖であります。
 鉄之助たちとほぼ同年代ながら、その生まれから唐津藩残党に奉じられ、海を渡るために新選組に加わった胖。その背負ったものから、周囲から浮いた存在であった彼に対し、土方が、少年たちが如何に接したのか……

 それはおそらくはフィクションなのだろうと想像しますが、しかしそんなことは関係なく、この時代に生まれついてしまった一人の少年の心の叫びと、真っ先に彼を受け容れた少年たちの姿を描いて、強く心に残るエピソードであります。


 何やら登場人物名を列挙して終わってしまい恐縮ですが、それだけ魅力的な人物揃いの本作。
 実は作者の言によれば本作は三部構成、第一部は鉄之助たちの視点、第二部は他の大人たちからの視点、第三部は土方の視点と、先に進むにつれて「星」の中心に迫っていく構造の模様です。

 しかしこの第一部の時点で、実に新鮮かつ魅力的な本作。ほとんどまっさらな心を持った彼らの瞳に、この星々の戦いはどのように映るのか――それを想像するだけで胸が高鳴るのであります。

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