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2017.07.27

石ノ森章太郎『変身忍者嵐』第1巻 怪人たちの中の「人間性」を描いて

 故あって、今更ながらに石ノ森章太郎の漫画版『変身忍者嵐』を読み返しました。その衝撃のラストで知られる本作ですが、改めて読み返してみれば、そこに至るまでも実に面白い。というわけで漫画版を紹介――大都社版の単行本をベースとしていますので、今回は全2巻のうち第1巻を取り上げます。

 悪の忍者集団・血車党に、父・嵐鬼十を殺された青年忍者・ハヤテ。父が編み出した法で奇怪な能力を持った血車党の化身忍者たちに、父に術を施されたハヤテは変身忍者嵐に変身して戦いを挑む――
 そんな物語の骨格自体はTV版と同じ本作ですが、しかしそのディテールは大きく異なります。

 その第1話『化身忍群、闇に踊る』は、骨餓身丸(TVの骸骨丸)率いる三人の化身忍者が、さる藩で巡らせる陰謀に対し、ハヤテとタツマキ・カスミ・ツムジ親子が挑むというフォーマットはTV版とほぼ同一ですが、それはこのエピソードのみというのが潔い(タツマキ親子の登場は今回のみ)。
 しかし容赦ない怪奇描写・怪奇描写は迫力満点、嵐の初変身の描写も面白く、この回のみ炸裂する忍法(秘剣にあらず)影うつしも違和感なく、この路線で行っても十分面白かったのでは……という印象はあります。

 そして第2話『青い猫の夜』は、鍋島直茂を苦しめる化け猫の怪を描く内容で、ほとんどそのまま鍋島の猫騒動をなぞった内容ではありますが、奇怪な猫婆に、ハヤテに助力する二人の美女、そして何よりも強力な猫の化身忍者と嵐の忍法対決と見所が多いエピソード(美女の活け作りなどという山風チックなシーンも)。
 しかし何よりも印象的なのはそのラスト。化身忍者の正体はすぐ予想がつくものの、その行動の理由は――! 最終話で描かれる血の因縁に繋がるものも感じられる、切ない真実が刺さります。

 刺さるといえば第3話『白い狐、枯れ野を走る』。こちらも「葛の葉」の伝説をまんまなぞった展開ながら、それを忍者ものに完璧に落とし込み、哀しい化身忍者の宿命を浮き彫りにしているのはただ圧巻であります。

 そして第4話『視よ 蒼ざめたる馬 その名は死』のモチーフは、黙示録のペイルライダー(!)。もっともナレーション(?)で黙示録が引用されるだけですが、狙いを付けた村人の家の前に青い馬の土偶を置く、古代の武人姿の怪人というシチュエーションは、怪奇性濃厚でいい。
 そしてそれ以上に、今回の敵となる山彦海彦兄弟が、出番が少ないながらかなり個性的で、特に兄の方には、血車党にもこういう人間がいるのか……と考えさせられることしきり。その巻き添えを食ったような形の弟も、共感はできないまでも行動原理はそれなりに理解できます。
(ちなみに今回と次の回は、TV版でもやたら登場した、村人をさらって労働力とする血車党が描かれて、これはこれで興味深い)

 そしてこの巻のラスト、『地の底で黄金の牛が鳴く』は、牛頭人身の化身忍者と地底の黄金という題材から、クレタ島のミノタウロスをモチーフにしたと思しきエピソード。
 本作にしては珍しく、化身忍者側の人間性がほとんど描かれず(それが一つの仕掛けですが、有効に機能しているとは言えず……)、むしろ強力かつ謎めいた行動を取る化身忍者打倒に力点を置いた印象があります。

 そしてそんな内容でありつつも、この回ではついに嵐は登場せず、ハヤテは生身で化身忍者に挑むことに……


 と、第1巻の内容を駆け足で見てまいりましたが、改めて驚かされるのは、その内容の豊かさであります。

 何よりも驚かされるのが、ゲスト化身忍者の「人間性」――異形の能力と容姿を持った者たちの中の「心」の描写は鮮烈で、そんな彼ら彼女らを(時に心ならずもとはいえ)屠っていくハヤテの方が非人間的に見えるほど……
(ラストの展開は、決して突然のものではないと改めて確認)

 その一方で、怪奇性濃厚な、奇怪な能力を化身忍者との死闘は、怪奇アクションものとしての忍者ものの可能性をはっきりと見せてくれるもので、こちらの完成度も決して見逃してはならないと感じます。

 そしてこれらの方向性は、物語がさらに進むにつれてさらに先鋭化していくのですが……それはまた次の回に。


『変身忍者嵐』第1巻(石ノ森章太郎 大都社St comics) Amazon
変身忍者嵐 (1) (St comics)

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