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2017.07.06

『決戦! 新選組』(その一)

 一つの合戦を舞台に、そこに参加した様々な武将たちの姿を一人一作で描く『決戦!』シリーズ。非常にユニークな試みだけに、戦国時代以外でもいけるのではないか、と考えていたところに登場したのが本書――幕末最強の戦闘集団たる新選組を題材とした一冊であります。

 これまでのシリーズとは異なり、一つの合戦ではなく(池田屋や鳥羽伏見でも面白かったとは思いますが)、「新選組」という組織とそこに集った人々の姿を、芹沢暗殺から五稜郭まで、時代を追って描く本書。
 趣向がいささか異なるためか、登板する作家もニューフェイスが含まれているのも魅力的なところ、ここでは一作ずつ紹介していくこととしましょう。

『鬼火』(葉室麟)
 決戦シリーズのほぼ常連である作者による本作の主人公は沖田総司、描かれる事件は芹沢鴨暗殺――ある意味鉄板の組み合わせですが、しかし沖田にある過去を設定することで、彼の不安定な胸のうちを描き出します。
 それは沖田が幼い頃、見ず知らずの浪人に性的に暴行されていたという過去――その経験から心を凍てつかせ、うわべだけの喜怒哀楽を見せるようになった彼の心は、芹沢との出会いで大きく動いていくこととなるのです。

 沖田と芹沢という、ある意味水と油の二人は、実はそれだけに描かれることが多い組み合わせではあります。
 そんな中で本作は、それぞれに胸の内に深い屈託を抱えた――芹沢もまた、単純粗暴なだけの男としては描かれない――人物として描くことにより、互いを補い合い、求め合う存在として二人を描き出すことになります。

 しかしその果てに待つものが何であるかは、史実が示すとおり。そしてその時に沖田の胸に去来するものは――ある意味鉄板の内容ではありますが、それだけに作者の職人芸的うまさが光る作品であります。


『戦いを避ける』(門井慶喜)
 新選組の名を一躍高めた池田屋事件。本作はその事件での局長・近藤勇の姿を描きます――非常に個性的な角度から。

 不逞浪士を追い、市中を探索する中、池田屋で不逞浪士たちを発見した近藤。しかし近藤の心中にあるのは困惑と焦燥――まさか自分の方が「当たり」を掴むと思わなかった近藤は、別働隊が早く到着するよう、出来る限り戦いを引き延ばそうとするのであります。
 しかしそのいわば片八百長を仕掛けた理由は決して怯懦などからではなく、周平のため――そう、養子とした周平に手柄を立てさせるためだったのであります。

 近藤に見込まれてその養子となった周平。しかしその後何故か養子を取り消され、天寿を全うしてしまった(?)ことから、フィクションの世界でも芳しくない扱いの周平ですが、本作の周平は、これまでとは一風異なる人物として描かれます。
 さらにそこに、周平が板倉周防守の落胤だった説を絡めることで、近藤の深謀遠慮を浮かび上がらせる本作。しかし――だからこそ、ラストに描かれる悲喜劇のインパクトが強烈に浮かび上がるのです。

 ただ、個人的にはちょっと文体が苦手というのが正直なところではあります。


『足りぬ月』(小松エメル)
 個人的には、最近の作家で新選組で隊士個人を主人公とした短編集とくれば、真っ先に名を挙げたくなる作者の作品。藤堂平助を主人公に、油小路の決闘を描いた本作は、その期待に十二分に応える作品であります。

 津藩藤堂家の落胤とも言われる藤堂。しかし本作においては冒頭から、そこに彼の生き方を決定するような痛烈な裏切りと偽りを描き出します。以来、自分が世に出るためのいわば踏み台となる相手を探し求めて生きてきた藤堂。山南、近藤、伊東――次々と相手を乗り換えてきた彼が最期に見たものとは……

 「魁先生」の渾名からか、直情径行な若者として、あるいは原田や永倉、沖田らと若者同士の交流が描かれることが多い藤堂。しかし本作は、そんな彼を、上に這い上がろうとひたすらにあがく青年として描き出します。
 一歩間違えれば嫌悪感を招きかねないその姿も、しかしその根底にあるものを我々が知っていることで、むしろ彼の深い喪失感を際立たせるのであります。

 冒頭で触れたように近年は新選組隊士個人にスポットを当てた作品で活躍する作者らしい好編。そちらの作品群と繋がる世界観を感じさせる内容も嬉しいところであります。

 残り三編は次回紹介いたします。


『決戦! 新選組』(葉室麟ほか 講談社) Amazon
決戦!新選組


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