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2017.07.04

辻真先『義経号、北溟を疾る』(その二) 幕臣たちの感傷の果てに

 明治天皇のお召し列車による北海道行幸を背景に、謎解きあり活劇あり大決闘ありのジャンルクロスオーバーで繰り広げられる大快作の紹介の続きであります。

 前回は、本作に登場するキャラクターたちが如何に魅力的であるかを縷々述べさせていただきましたが、もちろん、彼らが活躍する物語の方も興趣満点であることは言うまでもありません。

 その一つが、この物語が幕を開けるきっかけとなった殺人事件。酒乱で知られる黒田清隆が、元同心の妻を乱暴、首を締めた末に梁から吊したという凄惨な内容なのですが――これがミステリでいう「雪の密室」そのものとなっているのが実に面白いのです。

 一見、黒田の犯行にしか見えないこの事件ですが、何故わざわざ彼が被害者を吊り下げるような行為に及んだのか? しかも天井は高く、梁は人一人を支えるのがやっとな状況で……
 そんな謎がある上に惨劇の舞台となった場所では雪が降り積もり、にもかかわらず(仮に外部の犯行だとして)犯人の足跡も見つからない状況なのです。

 天皇のお召し列車を巡る物語の中でで、このような密室ミステリが展開されるのも驚きですが、しかしこれが、物語において、賑やかし以上の役割を持っていて――というのはさておき、ここまできっちりとミステリを仕掛けてくるのも、今なお『名探偵コナン』の脚本を手がける作者ならではの要素でしょう。


 しかしもちろん、本作のクライマックスであり、最大の魅力は、こうした要素を積み重ねた末にラストで繰り広げられるお召し列車を巡る攻防戦にあることは間違いありません。

 藤田らコンビの探索の一方で、当然ながら厳戒態勢で進められるお召し列車の警備。その列車の進行を如何にして妨害するのか――元同心一味はたった四人、その四人で北海道の原野を往く列車に挑むというのは、一種の不可能ミッションものとしての面白さすら感じさせます。

 そしてお召し列車が出発(天皇一行の到着が遅れ、夜の出発となったという史実をまた効果的に利用!)して以降のクライマックスは、もはや全編これ読みどころとも言うべき内容であります。
 次から次へと繰り出される妨害側の奇手に対し、立ち向かえるのは藤田五郎と法印大五郎の二人のみ……というのは、ある意味お約束ながら、そのシチュエーションが最高に熱く盛り上がります。

 そしてまた、視点を少し変えてみれば、元新選組の藤田と、元八丁堀同心の彼らは、かつては共に幕臣。藤田が会津戦争後に斗南の開拓に加わっていたことを考えれば、屯田兵でもある元同心たちは、藤田とはほとんどコインの裏表とも言うべき存在であると気付きます。
 そんな両者が、明治という新しい時代の象徴とも言える鉄道を挟んで激突するというのは、何とも物悲しい構図であるとも言えますが……

 しかし、ここであの密室殺人の真相を挟んで語られる物語の真の構図は、意外かつ異常な内容でありつつも、そんな歴史を背負ってきた男たちの感傷を完膚なきまでに叩き壊してみせる、皮肉極まりないものとして突き刺さります。
 そして同時に、ラストを含めて随所に描かれてきた鉄面皮の下の素顔があるからこそ、藤田にはそんな事件を解決し、そして犯人を裁くことができたのだということに、我々は驚きとともに気付かされるのです。


 キャラクター良し、謎解き良し、アクション良し、そして歴史への目配せももちろん良し――生ける伝説のページにまた一つ傑作が加わったと評しても、決して大げさとは言えないと感じます。


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