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2017.07.18

かたやま和華 『されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記』 彼の奮闘の意味と努力の行方と

 猫股の祟りで等身大の白猫になってしまった青年・近山宗太郎が、人間の姿に戻るべく善行を重ねるため、よろず請け負い屋として活躍するシリーズも、早いもので第4作目。今回彼が出くわすのは、千里通の福犬がきっかけの犬猫合戦に、五匹の黒猫と暮らす浪人の謎であります。

 ふとしたことから猫股の長老の怒りを買い、気がついてみれば正真正銘の猫侍になってしまった宗太郎。父に迷惑をかけてはならじと家を出た彼は、百の善行を重ねて人間に戻るため、裏長屋で猫の手を貸すよろず請け負い業を開業いたします。
 江戸の人々からは、人間になる途中の猫股と思い込まれている宗太郎、猫山猫太郎という周囲の呼び間違いを律儀に訂正しつつ、今日も猫の手屋として奔走することに……


 という本シリーズですが、本作に収録されているのは三編二話のエピソードであります。
 一話目の『犬猫合戦』で描かれるのは、猫と並んで人間の友として長年親しまれてきた犬を巡る騒動。
 ある日、犬を連れて江戸に現れた一人の老婆。福犬だというその犬・大丸からのお告げを語る老婆は、あらゆるものを見通すかのようなその正確さから、(特に犬党の間に)瞬く間に信奉者を集めていくことになります。

 それだけならばまだしも、老婆は怪しげな厄除けの護符を売り始め、さらに宗太郎の存在が化け猫の祟りをもたらすと予言したことから、江戸の犬党と猫党の間が一触即発に。
 自分の存在が争いの原因となったことに悩む宗太郎は、普段からまとわりついてくる役者の中村雁也の力を借りて、老婆の正体を暴くべく一芝居打とうとするのですが……

 「伊勢屋、稲荷に犬の糞」と言われたように、江戸には数多くいた犬。そんな犬たちがこれまで本作にほとんど登場しなかったのは、言うまでもなく主人公をはじめとして猫サイド(?)であったためかと思いますが、しかしこの時代に犬党の人間が少なくなかったであろうことは容易に想像がつきます。
 このエピソードは、犬だ猫だと異なる好みの人々の間で、ちょっとしたきっかけで争いが起こる怖さを描いた物語でもありますが、同時に、これまで宗太郎が出会った人々が次々と登場し、彼を支えてくれるという内容であるのも楽しいところです。

 猫の手屋としての彼の奮闘の意味を今一度確認させてくれる、なんともホッとさせられるエピソードであります。


 そして後半の『宵のぞき』『すばる』は、本シリーズには比較的珍しい、重たくも切なく、そして感動的なエピソード。

 町のあちこちから烏猫(黒猫)を集めている謎の浪人がいるとの知らせに、浪人のことを密かに探ることになった宗太郎。吉原裏の浅草田んぼで五匹の烏猫と暮らすその浪人を見つけた宗太郎ですが、浪人はかつて彼が人間であった頃の道場の先輩・羽鳥晋次郎だったのです。
 剣の腕も、人となりも優れた人物であった晋次郎が労咳を病み、周囲に迷惑をかけないように一人家を出たと知る宗太郎。晋次郎が烏猫を集めていたのも、烏猫が労咳に効くとの俗信によるものだったのであります。

 猫姿の宗太郎をかつての後輩と知らずに接する晋次郎を助けるべく、小屋に通うこととなった宗太郎。しかし彼の力も病には及ばず、晋次郎は彼にある頼みをするのでした。
 それは介錯――既に治る見込みもない病によって見苦しい姿で死んでいくのであれば、せめて武士らしく自裁したいという晋次郎を前に、宗太郎は……

 これまで、宗太郎自身の努力と、周囲の助けによって、猫の手屋として、様々な難事を解決してきた宗太郎。しかしそんな彼の力でも、どうにもならないことは確かにこの世にあります。
 このエピソードで描かれるのはその一つ――ただ命を消耗していくばかりの相手に何ができるのか。本当に武士として介錯することが正しいのか――本作はそこに、実に彼らしい見事な答えを描いてみせるのです(特に、彼の語る武士のあり方には感心!)

 もちろんそれはある種の慰めにすぎないのかもしれません。結局は彼も周囲も踊らされただけで、結末は変わらないのかもしれません。それでもなお貫いてみせた宗太郎の努力が決して無駄でないことは、可笑しくも美しい一つの奇跡を描く結末に表れています。


 果たしていつ終わるともしれぬ宗太郎の猫の手屋稼業。しかし彼の奮闘が報われる日はいつか必ず来る――そしてその時そこにいるのは、かつてとは比べものにならないほどに成長した人間・近山宗太郎の姿でしょう。
 いささか気が早いことながら、そんなことを想像してしまう本作でありました。


『されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記』(かたやま和華 集英社文庫) Amazon
されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)


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