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2017.07.03

辻真先『義経号、北溟を疾る』(その一) 藤田五郎と法印大五郎、北へ

 TV創生期から脚本家として数々の名作を送り出してきた辻真先。しかし同時に氏はミステリを中心に活躍してきた小説家でもあります。本作はその最新の成果――北海道を舞台に、明治天皇を乗せた列車の妨害を企てる一党に、藤田五郎(斎藤一)と法印大五郎が挑む、歴史冒険ミステリの快作であります。

 明治13年(1881年)のある日、警視庁を訪れた勝海舟と清水次郎長――山岡鉄舟と繋がりを持つ二人は、北海道大開拓使・黒田清隆にまつわるある探索を、かつての新撰組三番隊長・斎藤一、今は警視庁に奉職する藤田五郎に依頼します。
 黒田のためなら動かないが、山岡鉄舟の依頼であればと二つ返事で引き受けた藤田。彼は、相棒として選ばれた次郎長一家の法印大五郎とともに、札幌に向かうのでした。

 彼らの探索の目的は、北海道に行幸した明治天皇がアメリカから輸入された機関車・義経号が引くお召し列車に乗る――黒田清隆肝煎りのこの一大イベントを妨害しようとする者がいるという情報の真実を探ること。
 この報を残して謎めいた死を遂げた諜者の痕跡を追ってきた二人は、屯田兵の中に、黒田に深い恨みを持つ一団がいることを知ることになります。

 かつての八丁堀同心たちである彼らが恨みを抱く理由――それは、彼らの一人の愛妻が、黒田に乱暴された末、首吊り死体として発見されたという事件でありました。
 その真相を追う間も近づいてくる天皇行幸の日。真相がどうあれ、元同心たちが列車を妨害し、黒田の面目を丸潰れにせんとしていることを知った二人は、それを阻むために奔走するのですが……


 そんな本作の感想を表すとすれば、それはもう「面白い!」の一言に尽きます。

 まず何よりもたまらないのは、主人公コンビの人物配置であります。
 もはや明治ものではすっかりメジャーなキャラクターになった感のある斎藤一こと藤田五郎は、鉄面皮で洞察力が鋭く、凄まじい剣の遣い手――というキャラクターはある意味定番ではありますが、時折見せる人間味がなんとも魅力的な人物。

 何しろ登場するや否や、薩摩閥のお偉方の言葉を無視して、家で待つ妻子のもとに帰ろうとするという、この時代からすれば型破りな人物なのですが、普段寡黙なのに、話題が土方のことになると黙っていられないのもまた、ニヤニヤさせられてしまうのです。

 そして彼の相棒となる法印大五郎もまた、実にユニークな人物であります。
 有名な「すし食いねえ」でも名が上がる侠客であり、その通り名が示すように山伏姿であったという彼は、様々な逸話の持ち主ですが、本作においては子供好きで、藤田とは正反対の陽性のキャラクターとして描かれているのもなのが楽しい。

 そして先に挙げた勝海舟や次郎長、山岡鉄舟などチョイ役ながら大きな存在感を持つ面々に加え、本作のそもそもの発端ともいうべき黒田清隆も、酒乱で好色という欠点を持ちつつも、普段は豪快で度量の大きな好漢として描かれているのもまたいいのです。


 しかし本作のキャラクターの魅力は、実在の人物だけにとどまりません。本作においてはいわば容疑者となる四人の元八丁堀同心は、いずれも得意な、いや特異な武術や特技を持つキャラクターであり、歴戦の猛者である主人公コンビにとっても、敵として不足はないといったところ。
 そして義経号を動かす洋行帰りの御室兄弟も、線が細いようでいてなかなか骨っぽい良いキャラクターで魅力的なのですが――しかしこれら全てを吹き飛ばすほどの破壊力を持つのが、本作のヒロイン格の二人であります。

 その一人は、黒田に殺害されたと目される元同心の妻の妹・春乃。まだ少女ながら、しかし実は武術の達人であり、その戦闘力は元同心たちの中でも最強クラスのとんでもない戦闘美少女であります。
 そしてもう一人は、御室兄弟の妹のように育てられたアイヌの少女・メホロ。赤子の頃に箱館戦争に巻き込まれて親と引き離され、何と狼に育てられたという天真爛漫な野性の美少女であります。

 このあまりに対照的な(初登場時にいきなり物理的な意味で大激突する)美少女二人、特にメホロの強烈なキャラクターは、一歩間違えると作品のカラーそのものを塗り替えかねないのですが、その辺りのさじ加減も含め、これはさすがにこの作者ならでは……と感心するほかないのです。


 と、キャラクターだけでだいぶ分量を取ってしまいました。次回に続きます。


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義経号、北溟を疾る (徳間文庫)

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