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2017.08.01

牧秀彦『月華の神剣 壬生狼慕情』 神剣が映し出す幕末剣士伝

 剣豪ヒーローが活躍する物語を得意とする作者が手がける新シリーズは、「常勝の御太刀」と呼ばれる神剣を巡る幕末もの。神剣が原因で父を殺され、京に向かうことになった青年・祝井信吾が、新選組の面々とともに歴史のうねりに巻き込まれることになります。

 神官の家に生まれながらも、修行そっちのけで剣術三昧の日々を送っていた信吾。時はペリーの黒船が来航してから十年、江戸と京の間で不穏な空気が漂う中、彼の父が守る神社には、何やら曰くありげな武士たちが次々と訪れるのですが……

 そんなある日、神社を訪れた武士の一団によって信吾の父が無残にも斬殺されるという事件が起きます。犯人の狙いは、神社で守られてきた大太刀の強奪――信吾は今際の際の父から、隠されていた大太刀を守り、しかるべき人物に託すことを命じられるのでした。

 誰に託すあてもなく江戸に向かい、行き倒れかかった信吾を救った若き剣士たちの一団。彼ら試衛館の剣士たちが、浪士組として京に向かうのに同行する道を選んだことで、信吾は思わぬ戦いに巻き込まれることに……


 タイトルに掲げられている「神剣」とは、「常勝の御太刀」と呼ばれる伝説の刀。無銘のその三尺の太刀は、古くは源義経に、その後は北条時宗、新田義貞、織田信長、豊臣秀吉、そして徳川家康と、とんでもない面々に授けられたという太刀であります。
 それを手にした者は、あらゆる戦いに勝ち、天下を取ることができるという伝説の太刀は、いつしか田舎神社に納められていたのですが――この激動の幕末に再び世に出ることになって、というのが本作の基本設定であります。

 ……と書けば、それこそ作者がスタッフに加わっていたアニメ『幕末機関説いろはにほへと』のような伝奇活劇のようですが、その辺りの要素は、実のところかなり抑え目。
 むしろ本作は、神剣伝説を背景に、そして信吾を狂言回しに、幕末の複雑怪奇な政治の力学と、その渦中に巻き込まれた剣士たちの姿を描くのが目的ではないかと――そんな印象を受けます。


 そしてそれこで最初に描かれるのが、近藤・土方・沖田……そして芹沢ら、新選組の面々なのであります。

 清河八郎(本作においては信吾と旧知の人物であり、そして神剣を狙う奸物として描かれるのですが)の献策により結成された浪士隊に加わり、武士として一旗上げるために京に上った近藤たち。
 縁あって彼らと行動を共にすることとなった信吾は、やがて彼らが近藤派と芹沢派に分かれ、ついには刀を以て対峙するまさにその真ん中に立つこととなるのです。

 ここで描かれる黎明期の新選組の面々は、ある意味鉄板の人物造形なのですが、それだけに親しみが持てるのも事実。そして悪役として描かれることが多い芹沢も、単純粗暴なわけではなく、様々な屈託を抱えた人物として描かれるのも好感が持てます。

 そして芹沢はともかく、近藤たちは信吾と負けず劣らずピュアな存在として描かれるのですが――それが幕末という混沌、そしてより直接的には神剣という存在を前にやがて変わっていくのは、ある意味それが世の必然とはいえ、何とも苦く物悲しいものをこちらの胸に残します。


 と、異色の幕末剣士列伝としてユニークな本作ですが、第1弾である本作の時点では、まだ少々薄味という印象は否めません。
 それは信吾のキャラクターが、良くも悪くもまだニュートラルな点によることが大きいかと思いますが(その他、名のある人物の去就がさらりと流されてしまうのも勿体ない)、これから物語の中で彼が成長していくことによって、そこは変わっていくのでしょうか。

 いきなり新選組という有名人集団との出会いと別れを描いたその次に、果たして誰が来るのか――その点も気になるところではあります。


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