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2017.08.21

紗久楽さわ『あだうち 江戸猫文庫』 ブレイクした作者の原点たる作品集

 つい最近『百と卍』でブレイクした紗久楽さわの、デビュー当初から今に至るまでの作品を収録した一冊であります。私は『百と卍』は未読ではありますが、本書に収録された作品が「お江戸ねこぱんち」誌に掲載された頃から大いに気になる作家だっただけに、今回の短編集刊行は実に嬉しいところです。

 全8編が収録されている本書ですが、「おとなのねこぱんち」誌掲載の2作品を除けば、いずれも「お江戸ねこぱんち」誌に掲載されていた作品。一番古い作品が2010年発表、最新は2017年ですから、実に7年間に渡る作者の歩みが収録されていることになります。

 以下、駆け足となりますが、収録作品を紹介いたします。

 『あだうち』は、主の親の仇を50年待ち続けて年老いた男を描く物語。中間であった彼は、身分を超えた友情で結ばれた主と、その弟とともに旅を続けていたものの、主は病で倒れ、さらに弟も仇討ちを止めることを望んで……
 そんな過去を抱える彼の前に現れた者とは、彼の悔恨と執念を洗い流すものとは――互いが相手を想い合いながらもすれ違う悲しみを描いた上で、それが昇華される姿を美しく描いてみせた本作は、表題作に相応しい作品と言って間違いないでしょう。
(そして初読時に色々と考えさせられた主の弟の言葉は、やっぱり……)

 続く『にゃんだかとってもいい日和』は、若い夫婦と猫の騒々しくも温かい日常を描く掌編。
 また『とらとらとら』は、「傾城反魂香」を題材に、なかなか芽が出ずに悩む国芳門下の若き絵師と、恋に恋する年頃の大店の少女の触れ合いを瑞々しく描く物語。文句を言いながらも二人のために骨折りするイケメン手代がイイ味を出しています。

 『しばふね』は、雪見舟に乗った二人の青年の他愛もないやり取りに、思うに任せぬ青春の切ないアレコレを交えて描かれる物語。
 青年の一人が妙に猫に絡まれるという、その理由がまた可笑しくも切ないのです(そしてあとがきを読んで、二人の名前に納得)。

 『かがやくひのみや』は、己を捨てた母を探す旅の途中、おかしな縁から宿場町の女郎屋に一夜の宿を借りた青年僧と、彼の前に現れた子を孕んだ天真爛漫な遊女の物語。
 内容的にはある程度予測できるものの、それでも親を探す子と、子を待つ親の想いが胸を打つのは、作者の時に柔らかさを強く感じさせる絵柄ならではでしょう。結末で描かれる一つの奇蹟が、この上なく美しく感じられる名品です。

 また、妻子を置いて江戸勤番となった青年武士を主人公とする『ふるさと戀し』は、彼の先輩藩士たちの呑気な暮らしぶりがまず楽しい一編。
 そしてその空気に馴染めずにいた青年の前に、やはり勤番であった父を知るという若衆が現れたことから、いつも明るく振る舞っていた父の心中を彼が知り、それが彼を――というのが泣かせるのです。

 あとがきによれば「江戸版『綿の国星』」という『きんととととと』は、なるほど猫耳少女のととが主人公の物語。
 猫でありながら生まれつき人の姿に変じることができる(ただしサイズは猫大で、人間の目には猫にしか見えない)彼女の冒険が、姉猫のきんととの目を通じて微笑ましく描かれます。

 そしてラストの『にゃんだかとっても江戸日和』は、題名から察せられるように『にゃんだかとってもいい日和』の7年後の続編。
 作中でもそれだけの時間が経ったものか、子供が生まれた夫婦と年老いた猫の日常が、温かく描き出される掌編ですが、お歯黒いうこの時代の当然を、違和感なく漫画の絵としてアレンジしているのにも感心します。


 以上、非常に駆け足で紹介しましたが、江戸時代の風俗や古典芸能等を踏まえつつも、時にシャープな線で、時に柔らかい線で描かれる物語の数々は、何度読んでも、何時読んでも魅力的に感じられます。
(ただ、ディフォルメされた猫のビジュアルには違和感があるかもしれません)

 冒頭に述べたとおり、ブレイクした作者の原点として(ちなみに匂わせる以外はBL要素はありません)、是非ご覧いただきたい逸品揃いであります。


『あだうち 江戸猫文庫』(紗久楽さわ 少年画報社ねこぱんちコミックスねこの奇本) Amazon
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