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2017.08.29

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』 人間と魔法使いの間に

 1926年、ニューヨークを訪れた魔法生物学者のニュートは、人間の男・ジェイコブと鞄を取り違え、中の魔法生物を街中に逃がしてしまう。折しも街中では建物などが何者かに破壊される謎の現象が続発。その犯人として追われる身となったニュートは潔白を示し、魔法生物たちを捕まえることができるのか……

 今なお人気の衰えることのない『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフとして、本編開始の数十年前を舞台として描かれる物語であります。
 主人公は、シリーズにも登場する魔法生物学書の著者であるイギリスの魔法使いニュート・スキャマンダー。ちょっと頼りない彼が、本作においては異国であるアメリカはニューヨーク――すなわち人間界を舞台に奔走することとなります。

 現代ほど人間界と魔法界が融和しておらず、その危うい均衡も、悪名高き闇の魔法使いグリンデルバルドの数々の悪事で崩される寸前だった時代。
 ある目的のためにアメリカを訪れたニュートは、ちょっとしたトラブルからスーツケースの中の空間で保護していた魔法生物たちをニューヨーク中にばらまくことになってしまいます。

 魔法生物たちを再び保護するために奔走する彼を助けるのは、パン屋を開くことが夢の人間の男・ジェイコブ。さらに初めは彼らを誤解して追いかけていた元・闇祓いの女性ティナとその妹・クイニーらの助けにより、次々と魔法生物を取り戻すニュートですが……

 しかしニューヨークでは、目に見えぬ奇怪な力により、街中の建物や道路が破壊されていく現象が頻発。さらにその現象によって上院議員が殺され、この事態を重く見た合衆国魔法議会から、ニュートたちは一連の事件の犯人として追われることとなります。

 かくて、ニュートたちの魔法生物探しと、街を騒がす謎の存在――無関係に見えた二つの事件は、意外な形で交わることに……


 この世界に重なるようにして存在する魔法界の住人、魔法族(魔法使い)たちが繰り広げる物語を描いてきたシリーズ本編。しかし本作には、過去の時代を描く以上に、本編とは大きく異なる要素があります。
 それは現実世界が、人間界が舞台となること――ジェイコブのように魔法の存在も知らない人間がほとんどで、魔法使いたちも人間たちの間で姿を潜めている世界が、本作の舞台であるということです。

 これは全く個人的な感想ですが、シリーズ本編(の映画で)不満だったのは、舞台のほとんどが魔法界であり、そして魔法界と人間界の関係性がほとんど描かれないように感じられる点でした。
 もちろんこれはない物ねだり、本編ではさして重要ではない要素だったわけですが、しかし伝奇者としては、異なる二つの世界がクロスオーバーする姿が、そこから生まれる物語が観たい、と強く感じていたのです。

 そしてその願いは、半分が本作で叶うことになりました。ニュートが魔法生物(これがまた、可愛いものから危険な奴、不思議な奴と様々で実に楽しい)をニューヨークにばらまいたことで、彼らが街中で暴れ回るというシチュエーションが堪能できたのですから。
 さらにクライマックスには、怪物による街の大破壊もありと、至れり尽くせり(?)の展開であります。

 この辺りは本当に楽しい作品だったのですが――しかし、魔法使いと人間、二つの世界の住人の関係性は、期待したほどには描かれなかったと感じます。

 もちろんこれは、作中でも描かれているように、未だ(少なくともアメリカでは)魔法使いと人間が没交渉であったという設定によりますが、しかし折角人間界が舞台なのだから、その関係性が変化していく様を観たかった――というのも正直なところです。
 確かにそれはニュートとジェイコブの友情、ジェイコブとクイニーの愛情を通じて、パーソナルな部分では描かれているのですが――しかしジェイコブが終盤ほとんど活躍がなかった(これは本作最大の問題では)こともあって、それ以上の発展はなかったのが残念なところではあります。

 もちろん、本作の終盤で真の黒幕が語るように、ポジティブであれネガティブであれ、この関係性こそが、この先あと4本予定されているという本シリーズの鍵となるのではないかと思えるのですが……


 何はともあれ、大ヒットシリーズのスピンオフにして新シリーズ開幕編という重責はきっちりこなしてみせた本作。
 この先、面倒くさい伝奇ファンも喜ばせてくれるような展開になることを期待したいと思います。


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