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2017.09.01

重野なおき『信長の忍び』第12巻 開戦、長篠の戦 信長の忍びvs勝頼の忍び

 本願寺との泥沼の戦いを終えた信長の次なる敵は、戦国最強の呼び名も高い武田家。その戦いの地は設楽ヶ原――いわゆる長篠の戦がついに始まることになります。そしてそこで千鳥は宿敵と再会することに……

 長島での一揆勢撫で切りという凄惨な結果を経て、ひとまずの決着を見た本願寺との戦い。とりあえず危機を脱した信長ですが、しかしまだまだ前途多難、次にその前に立ち塞がるのは、父・信玄亡き後も破竹の勢いをみせる武田勝頼の武田家であります。

 信長の同盟者たる徳川家康の領地を侵す武田家に対し、ついに決戦を決意する信長ですが、しかし武田家は最強の敵。信長は必勝のために幾重にも策を巡らせることになります。
 そんな中、信長の命を受けて千鳥が向かった先の鳶ヶ巣山砦で待っていたのは、かつて自分を捕らえ、瀕死の傷を負わせたくノ一・望月千代女で……

 というわけで、どうにもノレなかった長島編とはうって変わり、正当派の(?)武将と武将の合戦が描かれることとなるこの第12巻で描かれるのは、長篠の戦の前編とも言うべき内容。
 長篠の戦といえば、武田騎馬隊の突進を柵で食い止めた織田軍が鉄砲隊三段撃ちで――というのはもはやフィクションとされているわけですが、この巻では現在の通説を踏まえつつ、巷説などを取り入れてドラマチックに展開していくことになります。

 鳥居強右衛門の命を賭けた知らせ、佐久間信盛の偽りの寝返り、酒井忠次の鳶ヶ巣山砦奇襲――ここで描かれるものは、一つの合戦の勝敗を分けるのが、決してその場での武力のぶつかり合いだけではなく、そこに至るまでの人々の働きであることを示していると言えるでしょうか。

 特に信盛の寝返りと忠次の奇襲は、武田家の主力を織田家に有利な戦場に引っ張り出すという策のための伏線として、直接対決以上に意味を持つものなのですから……
(その一方で、ギャグでもやっぱり感動させられる強右衛門の覚悟)

 そしてそのそれぞれにおいても千鳥は活躍することになるのですが――この巻のラストで忠次の奇襲隊に加わった彼女を待ち受けるのは、信玄の忍び改め勝頼の忍び・望月千代女。
 千鳥とは様々な点で対照的な彼女と、忍び同士の宿命の対決が始まったところでこの巻は幕となるのですが――実のところ、この巻のもう一人の主役は、この千代女、というよりも勝頼をはじめとする武田家の人々という印象があります。


 信長の敵となる者たちを、基本的に単純な「敵」、悪役として描くことは少ない本作。その点からすれば、この戦で信長と激突する武田家の人々の描写が、通り一遍のものではないことは大いに頷けるところであります。

 しかも武田家には、すぐ上で述べたように、信長に対する千鳥とも言うべき千代女の存在があるわけで――彼女の目を通して描かれる勝頼や重臣たち、あと長坂釣閑斎の姿がこれまでの敵以上に生き生きとして見えるのはむしろ当然と言えるでしょう。
(さらに言えば同じ作者の『真田魂』第1巻でもこの戦いが描かれているわけで……しかし釣閑斎、あちらでは良いところもあったのに)

 そして千代女が、(たぶん)色恋抜きで主君のために命を賭けるのも、またグッとくるシチュエーションなのであります。


 ともに戦国において強大な力を――優れた家臣たちを――擁しながらも、(ほとんど)覇者となった者と、なれなかった者。その両者の一種代表となる形で前哨戦を繰り広げることとなった千鳥と千代女。
 その戦いの行方は、両家の運命を象徴するものとなるのでは――そんな気もいたします。

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