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2017.09.02

仁木英之『魔神航路 2 伝説の巨人』 ギャップ萌えの魔神と古の神の信徒と

 ギリシャ神話の世界に転移、神々や英雄と融合してしまった現代日本の若者たちの冒険を描く『魔神航路』の第2弾であります。思わぬ「敵」の登場によって水入りとなった航海も再び始まり、新たなる騒動と強敵に見えることになった彼らの運命は……

 久々に帰った故郷で、高校時代の仲間たちと再会したものの、天変地異によりギリシャ神話の世界に飛ばされてしまった信之。
 彼は魔神テューポーンと融合、その他の仲間たちも、それぞれ神話に名を残す神や英雄と融合してしまうことになります。

 元の世界に戻るべく、二つの世界の接点と思われるコルキスの黄金の羊の毛皮を求めてアルゴ船で航海に出た信之たち。しかしその前に現れた健史――別人のような人格に変貌し、そしてオリンポスの主神・ゼウスと融合した彼によって、信之とテューポーン、オルフェウスは元の世界に戻されることに……

 という前作ラストを受けて始まる本作。信之はともかく、テューポーンたちまで現代の日本へ転移してしまい、どうなることかと思いきや、これがあっさりと古代ギリシャに帰還するのですが――しかしこの展開が、物語の強烈なアクセントとなっているのです。
 信之とはタイムラグを以て現代の日本に飛び出してしまったテューポーンたち。何とか適応して生き延びてきた彼らは、現代の日本のアレコレを学習して帰ってきたのです。

 かくて、テューポーンが事あるごとに現代で目にしたもの――特に特撮やアニメの類――の知識を活かそうとすることで、色々と面白くもややこしい展開が繰り広げられることになります。
 ただでさえ魔神の魂と少女(?)の姿というギャップの塊のようなテューポーンが、うろ覚えの現代の知識を語り出すということでギャップの二段・三段重ねとなるのですから、振り回される信之たちももう大変なのです。

 そして健史を除けばただ一人、信之たちアルゴ船のメンバーとは離れた――というより彼らの目的地のコルキスにいる――海晴も、融合したコルキスの王女にして強力な魔法使いであるメディアのパワーで助っ人参戦するのであります。……20歳にもなって魔女っ子コスで。(一応理屈はあるのですが)

 この辺りは好き嫌いが分かれるかもしれませんが、僕としては、せっかく(?)現代人が転移してきているのだから、これくらいはむしろあってしかるべき、という印象です。
 テューポーンと信之の絆がより強まっていくことを、いささか変則的な形で描くという意味づけもあり、何よりも非常に楽しいではありませんか。


 が、もちろん彼らの旅は、楽しいことばかりではありません。この巻のメインとなる冒険では、彼らは相対する二つの国家と、そしてその両者から弾圧される古き神の信徒たちの戦いに巻き込まれることになるのですから。

 突如現れた伝説の巨人――ギガス族の生き残りを辛くも退け、港町キュジコスに辿り着いた一行。隣国ペラスドイとは一触即発状態のキュジコスで歓待される一行ですが、しかしキュジコス王宮を守る武官・ダリアヌスには隠れた大望があったのです。

 ゼウスらに敗れたティーターン神の一人であり、その信徒も激しい弾圧を受けてきた女神・レアー。その信徒である彼は、レアーの子たるギガスを密かに育て、意思を通じていたのであります。
 そして密通を重ねていたキュジコス王の妃のためにも、二つの国を向こうに回して立とうとするダリアヌなのですが……

 本作の陰の主役とも言うべき存在が、このダリアヌ。その行動は一種のテロリズムというべきなのかもしれませんが、しかし理不尽な弾圧を受けてきた民の出身である彼の想いは、簡単に悪と断じることなどできない多面性があります。
 また、王妃との密通も、王に捨てられた彼女に対するむしろ純愛とも言うべきものであり――単純な反逆者としては描かれてはいないのです。

 そして人の身ながら強大な神の力を手にしたという点で、彼は信之たちの鏡像ともいうべき存在なのですが――そんな彼とやむを得ず対決することとなる信之、というシチュエーションはいかにも作者らしい展開といえるでしょう(弾圧された神の信徒の戦いという点で『くるすの残光』にも重なるものが)。
 ここでで描かれる、明るいばかりでも楽しいばかりでもない――そして便利な神々の力でも解決できぬ――何処の世界でも変わらぬ人間の生のままならなさは、強く心に残るのであります。

 そんな苦いものを味わいつつも、なおも続くアルゴ船の旅。全4巻の物語は、いよいよ後半戦に突入することになりますが――それはまた後ほど。


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