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2017.09.18

吉川景都『鬼を飼う』第3巻 大人サイドと青年サイドで描く二つの奇獣譚

 昭和初期を舞台に、人知を超えた奇妙な生き物――奇獣を巡って繰り広げられる奇妙な物語も、はや3巻目。奇獣に魅入られたかのような帝大生・鷹名を中心とした物語は、時に静かに、時に激しく展開し、次第にその真実の顔を明らかにしていくことになります。

 東京は本郷で無愛想な主人・四王天と美少女・アリスが営む四王天鳥獣商を訪れたことがきっかけで、奇獣と関わり合うこととなった帝大生の鷹名と司。
 奇獣の引き起こす奇怪な事件に次々と巻き込まれる二人ですが、やがて四王天と司は、実は鷹名と奇獣の間のある因縁を知ることになります。

 一方、奇獣関連の事件を扱う特高の特殊部隊・夜叉は、東京で奇獣絡みの事件が続発していることに不審を抱く中で、思わぬ大物の登場に不覚を取ることに。
 一連の事件の背後で糸を引く何者かの影。真意を見せない四王天の謎めいた行動もあり、事態は一層混迷の度合いを深めることに……


 という状況を受けてのこの第3巻は、これまで同様、縦糸となる奇獣にまつわる陰謀の影を描きつつ、基本は1話完結のエピソードで展開していくことになるのですが――この巻においては、それがさらに二つの流れに分かれて描かれることになります。

 その一つは、四王天や夜叉のサイド、奇獣とは付き合いの深い彼らを中心としたシリアスな物語。これまでにも描かれてきた縦糸に近いエピソード――奇獣とその持ち主を時に襲い、時に監視する何者かの正体を追う彼ら、いわば大人サイドの物語が、こちらでは描かれることになります。

 そしてこの大人サイドで今回ついに登場することになるのは、一連の事件の背後に見え隠れしていた謎の軍人・宍戸の姿なのですが――これがまた強烈なキャラクター。
 私は金が大好きなだけと公言して憚らぬ一方で、奇獣の力を試すために、人の命を平然と犠牲にするこの男、飄々とした部分とひどく冷酷な部分を合わせ持った、曲者揃いの本作でもさらに油断のできぬ人物であります。

 この巻では、彼の行動と目的らしきものの一端が描かれるのですが――さてこれがこの先何に繋がっていくというのか。単に金儲けのためとは思えぬ彼の真意は何なのか、この先の物語を大きく左右することになることは間違いないでしょう。


 そしてその一方で描かれるのは、鷹名と司の――青年サイドの物語であります。
 四王天が不在の間に、奇獣絡みの事件の解決を任された鷹名と、彼をフォローする司。奇獣の能力に翻弄されながらも何とか一つ一つ事件を解決していく鷹名ですが、実はその背後には彼自身の秘密と、それを踏まえての四王天の思惑が……

 という裏の事情もあるものの、純粋に登場する奇獣の能力・生態と、奇獣たちに対する鷹名たちのリアクションが実に楽しいこちらのサイド。
 奇獣に対してはほとんど生き字引の四王天に比べれば頼りない二人ですが、しかしだからこそ正体不明の奇獣たちの能力と、奇獣が引き起こす騒動への打開策が一つ一つ明らかになっていく展開が、実に魅力的なのです。

 剣呑な奇獣の登場が多い大人サイドに比べれば、こちらに登場する奇獣は比較的おとなしめ。しかしそれだけにどこか呑気で、時にすっとぼけたような彼らの姿は、時に民俗的な味付けも含めて、作者の作風に非常に良くマッチしているという印象があります。(特に猫又とその飼い主……)

 またこちらは大人サイドでありますが、20年に一度、とある旧家に現れてはその家の男児を取っていく奇獣・アネサマのエピソードも実にイイ。
 変形の座敷童子譚とも言うべき設定自体はさまで珍しくはありませんが、人間のエゴと旧習の不気味さを描くきつつも、ある純粋な想いが招いた因縁の結末には、思わず涙がこぼれそうになりました。


 何はともあれ、派手な伝奇活劇と、時にコミカルで時に感動的な怪異譚と――大人サイドと青年サイドで対照的に描かれる二つの奇獣の物語が魅力的な本作。

 正直なところ、アクション描写については不満がなくもないのですが、ついに黒幕的存在も登場したいま、二つの物語がこの先どのように交わり、どのように展開していくのか――大いに楽しみであることは間違いありません。


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