« 吉川景都『鬼を飼う』第3巻 大人サイドと青年サイドで描く二つの奇獣譚 | トップページ | 芝村涼也『鬼変 討魔戦記』 鬼に化す者と討つ者を描く二つの視点 »

2017.09.19

武内涼『妖草師 無間如来』 帰ってきた妖草師と彼の原点と

 あの妖草師が帰ってきました。常世に芽吹き、人の世に害を為す妖草を刈るエキスパート・庭田重奈雄と、天眼通を持つ美女・椿の冒険を描くシリーズ第4弾であります。短編集形式の本作では、お馴染みの面々に加え、個性的な新キャラクターも登場し、新たな物語が始まることになります。

 この世の植物によく似た姿ながら、この世ならぬ常世に芽吹いて人の心(の負の部分)を苗床に育ち、その超常的な能力で害を為す植物――妖草。

 この妖草に対し、その正体・能力・性質を知り、対処する者たちが妖草師――本作の主人公・重奈雄は、代々京を守ってきた妖草師の家系に生まれながらも、故あって家を飛び出し、市井に暮らしながら妖草の脅威に立ち向かう白皙の青年です。
 その彼を支えるのが、華道滝坊家の娘・椿。生まれながらにこの世ならぬものの気配を察知する天眼通の持ち主である彼女は、愛する重奈雄をその力で助けてきたのでありました。

 そんな二人と宝暦事件の背後で妖草を操り恐るべき陰謀を企んだ怪人との戦いを描いた第3作『魔性納言』刊行後、一旦休止状態にあったシリーズですが、本作でめでたく復活。帰ってきた重奈雄に椿たちの新たな冒険を描く本作は、全5話から構成された短編集であります。
 『赤山椿』『深泥池』『遠眼鏡の娘』『姿なき妖』『無間如来』――いずれも奇怪な妖草の跳梁と、その陰の人の心の在りようが描かれる、その内容については後述するとして、まず見逃せないのは、新たなレギュラーが二人加わったことでしょう。

 一人は妖草師の修行のため、江戸からやってきた男装の美女にして剣士の阿部かつら。前作の事件を経て、妖草師養成の必要性を痛感した幕府が、妖草師の本場である京に派遣したという設定も実に興味深いのですが、その彼女が重奈雄に弟子入りし、長屋の隣の部屋で暮らすというのが、椿の心を乱すことになります。
 もちろん重奈雄は椿一筋、かつらも色気とは無縁のサバサバしたタイプなのですが、ようやく結ばれると思ったら(いや第3弾のラストからすればそう思って当然ですが)お預けのところに、悪い虫が! と一方的に椿をヒートアップさせるのが、本人には申し訳ないことながら実に楽しいのです。

 そしてもう一人は実在の本草学者・小野蘭山。植物や自然の事物に造詣の深い、まずは好漢なのですが――妖草の存在を認めようとしないのが玉に瑕(?)。
 重奈雄を胡散臭い男とみてことあるごとに突っかかる(しかしこういう立場のキャラの常として、妖草の犠牲になりやすい)人物で、決して悪人ではないものの、重奈雄にとっては何ともやりにくい人物なのです。


 そんな個性的な二人だけでなく、曾我蕭白や池大雅といったシリーズのレギュラー陣も健在で、賑やかなキャラ配置の本作ですが――短編集という性質故か、ストーリー的には少々おとなしめ、どちらかと言えば人情譚的側面が強い印象を受けます。
 が、これが本作においては良いアクセントとなっている――というよりも、妖草師の在り方に関わってくるのには感心させられました。

 言うまでもなく妖草を駆除するのがその任務である妖草師。しかし妖草も一種の植物であれば、単に生えたものを刈るだけでは足りません。二度とそれが生えることのないよう、その元を絶つ必要があるのです。
 冒頭に述べたとおり、常世に芽吹き、人の負の心を苗床に育つ妖草。だとすれば元を絶つとは、負の心をなくすこと――すなわち、悲しみや怒り、恐れといった感情に囚われた人々の心を癒やすこともまた、妖草師の任なのです。

 妖草師を志す者を登場させ、そして妖草師の原点を――彼が単に妖草と戦う存在ではないことを改めて示した本作。その物語は、シリーズの再開に相応しい内容と言えるのではないでしょうか。

 と、その一方で、シリーズらしい奇想に富んだ妖草バトルも忘れられてはいません。特に巻末に収められた表題作は、他の作品とは毛色が異なり、妖草の力を得て巨大な野心を抱えた者を相手に、重奈雄が完全武装で挑むアクションシーン満載の物語であります。

 内容的には長編でも良かったのでは――というのはさておき、敵に力を貸す妖草の正体も、ある意味非常にメジャーな、仰天ものの存在で、いやはや本作の物語バリエーションと世界観の豊かさを感じさせます。


 何はともあれ、新たなキャラクターを迎え、シリーズの魅力を再確認させてくれた本作。次はあまり間をおかずに続編に出会いたい――そう思ってしまうのも無理はない一冊なのです。


『妖草師 無間如来』(武内涼 徳間文庫) Amazon
無間如来: 妖草師 (徳間時代小説文庫)


関連記事
 「妖草師」 常世に生まれ、人の心に育つ妖しの草に挑め
 『妖草師 人斬り草』(その一) 奇怪なる妖草との対決、ふたたび
 『妖草師 人斬り草』(その二) 人の、この世界の美しきものを求めて
 武内涼『妖草師 魔性納言』(その一) 対決、闇の妖草師
 武内涼『妖草師 魔性納言』(その二) 人の自然と自然の美を愛して

|

« 吉川景都『鬼を飼う』第3巻 大人サイドと青年サイドで描く二つの奇獣譚 | トップページ | 芝村涼也『鬼変 討魔戦記』 鬼に化す者と討つ者を描く二つの視点 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/65809622

この記事へのトラックバック一覧です: 武内涼『妖草師 無間如来』 帰ってきた妖草師と彼の原点と:

« 吉川景都『鬼を飼う』第3巻 大人サイドと青年サイドで描く二つの奇獣譚 | トップページ | 芝村涼也『鬼変 討魔戦記』 鬼に化す者と討つ者を描く二つの視点 »