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2017.09.12

横山光輝『魔界衆』 滅びゆく超人たちと切なる祈り

 大坂夏の陣を生き延びた真田幸村は、豊臣家再興のため、飛騨に住まう伝説の「魔界衆」を探し出し、助力を得ようとしていた。その動きを察知した南光坊天海は配下の忍者集団を派遣、魔界衆の根絶を目論む。幸村との接触で外界に興味を持った若き魔界衆を待つ運命は……

 横山光輝の時代伝奇SF――そのおどろおどろしいタイトルと裏腹に、ある意味作者らしい一種の無常感・寂寥感を感じさせる物語であります。

 大坂の陣で死んでおらず、猿飛佐助・霧隠才蔵とともに生き延びていた幸村。何者かを探し、諸国をさすらう彼らの目的こそは、伝説の一族・魔界衆でありました。
 外界から隔絶された飛騨の山中に潜み、テレパシーなど常人を超えた能力を持つという彼らを味方につければ、豊臣家再興も夢ではないというのです。

 そして偶然魔界衆の赤子を見つけたことで、首尾よく魔界衆の里に入り込んだ幸村。しかしこの地に住み着いて以来、一族以外の人間との接触を禁じてきたという魔界衆の長は幸村の依頼を拒絶するのですが――兵馬ら魔界衆の若者たちは外界に興味を抱き、幸村とともに里を出て見聞を広めることになるのでした。

 一方、家康のブレーンである南光坊天海は、配下の忍者・九鬼一族に幸村抹殺を命じたものの、幸村が魔界衆と接触したことを知り、憂慮を深めます。
 九鬼一族の秘術と、魔界衆と同等の力を持つ天海によって追い詰められていく兵馬たち。さらに天海は魔界衆の里にもその手を伸ばすことに……


 と、幸村と手を組んだ魔界衆vs天海配下の忍者団の死闘が繰り広げられるアクション時代劇――と思いきや、それとは一風異なった物語展開を辿ることになる本作。
 何しろ、物語序盤は幸村視点で物語は進むものの、中盤以降はほぼ完全に彼の存在はフェードアウト、物語は完全に兵馬たち魔界衆が、天海率いる幕府の力に次第に追い詰められていく様を描いていくのですから。

 確かに本作には、いかにも横山時代劇らしいバトル要素もふんだんにあります。
 不死身の巨人を操る秘術、近づいたものを絡め取る「布とりで」(どこかで聞いたことがある……)などの忍法を操る九鬼一族に対し、兵馬らはテレパシーによる連携と常人離れした身体能力、そして一族に伝わる「神器」の力で激しい戦いを繰り広げるのですから。

 しかしその戦いは、それ自体が目的となるトーナメントバトル的なものでは決してありません。その戦いは、あくまでも物語を描くための手段にとどまるのであります。
 それではその物語とは何か? それは人間以上の力を持つ者たちが、その力故に運命に翻弄された末、多数者から弾圧され、滅ぼされていく物語――それであります。

 実は横山作品には(それが主題であるか否かはさておき)こうした構図の物語が決して少なくはありません。『闇の土鬼』の血風党、『地球ナンバーV7』の超能力者たち、あるいは『その名は101』のバビル2世……
 本作の魔界衆もまた、その力故に幸村のような人間に利用され(そうになり)、そして徳川幕府に追い詰められていく者たちなのであります。

 そう、ここにあるのは、横光漫画のトーナメントバトルにある非情さとは似て非なる、無常さとも言いたくなる味わいであり、人間存在に対するシニカルな視点なのです。


 正直に申し上げて、それ故本作は、どこか味気ないものを感じさせるのも事実なのですが――しかし、ラストで語られる本作のタイトルの本当の意味には、作者が人間という存在に賭けたある種の希望を、切なる祈りを感じさせます。
 そしてそれが本作独自の魅力であることは間違いありません。


 それにしても、魔界衆が『マーズ』の異星人のような置き土産を残さなくてよかった、というのは、もちろん蛇足であります。


『魔界衆』(横山光輝 講談社漫画文庫 全2巻) 上巻 Amazon/ 下巻 Amazon
横山光輝時代傑作選 魔界衆(上) (講談社漫画文庫)横山光輝時代傑作選 魔界衆(下) (講談社漫画文庫)

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