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2017.09.20

芝村涼也『鬼変 討魔戦記』 鬼に化す者と討つ者を描く二つの視点

 先に完結した『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズで大いに伝奇時代小説ファン、時代怪異譚ファンを驚かせた作者の新シリーズの登場であります。鬼と化して凶行に走る者たちと、それを討つ者たちの死闘を、作者ならではの視点から描く開幕編です。

 浪人の子であり、父を亡くした後、商家の小僧となった市松。それなりに平穏だった彼の日常は、店の前で行き倒れた物乞い夫婦が、人の良い主人夫婦に保護された日に一変することになります。
 その晩、眠りこけている店の者たちを次々と刺し殺していく何者かの影。間一髪、それに気づき、押入に隠れた市松は、その影が主人夫婦であること、そして物乞い夫婦に身をやつしていた男女が不可思議な技で主人たちを討つ姿を目撃することになるのです。

 自らも口封じに命を絶たれかけたところを、そこに現れた僧に救われ、彼らと同行することとなった市松改め一亮。
 一方、翌朝事件の発生を知り、惨憺たる店の有様を検めた南町奉行所の臨時廻り同心・小磯は、不可解な状況に尋常ならざるものの存在を感じ取り、独自に捜査を始めることになります。

 そして数日後、僧に伴われ、次なる惨劇の現場に立ち会うこととなった一亮。「芽吹いた」者を討つという僧たちは何者なのか。そして何故一亮は彼らに拾われたのか――いつしか一亮は、江戸の命運を左右するという戦いの渦中に身を置くことになるのであります。


 シリーズ開幕編ということでまだまだ謎の多い本作。敵の――いや彼らだけでなく、それに抗する僧たちも――正体や目的の詳細はわからぬまま、物語は展開していくことになります。

 どうやら敵は、いかなる切っ掛けによるものか、「鬼」に変じた、上で述べたように僧たちの言葉でいえば「芽吹いた」人間、そして僧たちは、遙か過去から鬼たちを討ってきた組織の人間……
 そこまではわかるものの、しかし物語を構成する要素の大半は、未だ謎のベールに隠されたままなのであります。

 しかしそれでも、いやそれだからこそ本作は面白い。そう思わせるのは、作者ならではの巧みな物語構成、そして視点設定の妙によるものでしょう。
 それを生み出しているのは、本作が二つの――一つは一亮の、一つは小磯の――視点から語られていくことによるものと感じられます。

 どうやらある種の特殊能力を持っているらしいものの、今のところはごく普通の少年でしかない一亮。そしてベテラン同心としての感覚で、一連の惨事の陰に何かがあるのを察知したものの、その真相を想像するべくもない小磯。
 彼らに共通するのは、それぞれ真相に対する距離に違いはあるものの、今のところは局外者でしかない点であります。すなわち彼らはヒーローでも魔物でもない、ごく普通の人間であり、本作は怪事に巻き込まれたそんな人々の物語なのです。


 この第1巻の時点で見えてくるものを踏まえて考えれば、本作はいわゆる「退魔師」ものであると想像できます。それも、かなりストレートなスタイルのものであると。
 時代ものといわず現代ものといわず、これまで無数に描かれてきた退魔師もの。そのありふれた題材を、本作は局外者の視点から――それも小磯の方は、いわゆる同心ものとしてのフォーマットをきっちり踏まえた上で、描きます。

 そこから生まれるものは、伝奇ものである以前に、時代ものとしての確たるリアリティ――鬼や超人が跋扈する世界を、我々常人の目からは隠された、しかし確かに我々の世界の隣に存在するものと思わせる手触りであります。

 虚実の皮膜ギリギリで展開する物語――それこそが時代伝奇ものの興趣の源であることは間違いありません。
 かつて『半四郎百鬼夜行』シリーズにおいてそれを見事に成し遂げた作者ですが、その手腕は、本作においてもしっかり健在であると言うことができるでしょう。

 この先、この世界で何が起こるのか、一亮と小磯が何を見ることになるのか――興味と期待は尽きない、新たなる芝村伝奇の幕開けであります。


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鬼変 討魔戦記 (祥伝社文庫)

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