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2017.10.24

室井大資『レイリ』第4巻 死にたがりの彼女の、犬死にが許されぬ戦い

 武田勝頼の嫡男・信勝の影武者にして、戦の中で死ぬことを夢見る少女・レイリが戦国の荒波を駆ける物語も第4巻。彼女にとっては命の恩人である岡部丹波守が高天神城で徳川軍に重囲される中、ただ一人、彼女は高天神城に向かうことに……

 織田からと思しき刺客が信勝を襲撃するなど、日増しに高まる武田家と織田家の緊張。
 影武者として、土屋惣三とともに信勝を守り抜いたレイリですが、その信勝と勝頼は、高天神城を巡り意見を対立させることになります。

 徳川軍に包囲された高天神城から送られた書状――救援を要請する主将・岡部丹波守からのものと、救援を断る副将・横田甚五郎からのもの、その二つを前に救援を送るべきか否かで意見が分かれた信勝と勝頼。
 その結果、高天神城への援兵は見送られることに……


 という展開を受けて始まるこの第4巻。恩人であり唯一の肉親にも等しい岡部丹波守の身を案じるレイリですが、、援兵見送りがある意味戦略的判断によって城側に伝えられていなかったことを知った彼女は、怒りを募らせることになります。
(このくだりで登場する真田昌幸の小才子ぶりが妙におかしい)

 勝頼とのわだかまりを抱えた信勝がそれどころではないのに見切りをつけ、惣三の制止を振り切って(何しろ斬ると言われれば本望な子であるからして)ただ一人レイリは高天神城へ……。
 というわけで、史実を踏まえつつも、ここから物語は一気に飛躍することになります。

 しかし、十重二十重に徳川軍に囲まれた城にそもそも彼女が入ることができるのか。そしていくら剣を取ってはほぼ最強の腕前とはいえ、彼女一人、合戦の場で彼女にできることはあるのか。――道場破りではあるまいし。
 その答えが一つ一つ示されていくこの先の展開が、この巻の白眉であります。

 本作の最大の特徴であるレイリの「死にたがり」という性格。それは言い換えれば「命知らず」ということでもあります。
 そしてその命知らずがしでかすことが、時に掟や道理、建前や理屈にがんじがらめに縛られた世界を打ち砕き、新たな答えを示すこともまた、あるのでしょう。

 正直なところ、これまで本作には、人物描写などは面白いものの、物語のエネルギーとしてはどこに向かうのかが今ひとつわからなかったのですが――なるほどこういう方向だったのか、と今更ながらにこの展開には感じ入りました。

 そしてその中で、彼女が信勝の影武者であるという要素も見事に活かされるとくれば、これまでの自分の不明を恥じるしかありません。(さらにそれを受けての守将たちの決断がまた泣かせる)
 さらにそこに、本作の細やかな描写――特に人物の表情で見せる感情表現が加われば鬼に金棒であります。

 特に再会したレイリと岡部丹波守のやり取りは、一つ一つのコマが(表情が)見所と呼びたくなってしまうようなクオリティ。
 ある「作戦」のために自ら望んで死地に赴くレイリにかけた丹波守の言葉に見せた彼女の表情などは、屈指の名場面というべきでしょう。


 死にたがりであった彼女にとっては、ある意味最良の戦場とも言うべきこれからの戦い。しかしここからは、決して彼女一人が死んで終わるものではない戦い、犬死には許されない戦いであります。
 我々はこの先の合戦の行方を史実として知っていますが――しかし、史実に決して残らない彼女の戦いの結末は、まだ誰も知りません。

 それを早く知りたい――そういう思いが高まる本作、いよいよ佳境に入ったと言うべきでしょう。


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