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2017.10.13

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第8巻 柱の強さ、人間の強さ

 相変わらず絶好調の『鬼滅の刃』最新巻であります。夢を操る鬼との死闘をくぐり抜けた炭治郎たちの前に立ち塞がる新たな強敵。それに挑む「柱」の真の強さとは――本作屈指の名場面が描かれることになります。

 汽車に網を張り、人間たちを覚めない夢の世界に引きずり込む力を持つ鬼・魘夢。鬼の中でも十二人のトップクラスの実力者(が、そのうち半分近くが既に粛正)の一人・下弦の壱である彼によって悪夢に囚われた炭治郎たちは大いに苦しむことになります。
 ようやく夢の世界を脱したものの、既に魘夢は汽車と一体化。内部の二百人の乗客を守りつつ魘夢を倒すという困難な戦いを、何とか炭治郎たちはやり遂げたのですが……

 これはこれで実に見応えがある戦いだったのですが、しかし少々残念な点が一つ。それは炭治郎のいわば上官としてこの戦いに加わっていた、鬼殺隊最強の九人である「柱」の一人、炎柱・煉獄杏寿郎が、その全力を発揮していないことであります。
 その奇抜なビジュアルと言動で、登場しただけで強烈なインパクトを残す杏寿郎。しかし車内では早速魘夢の術中に落ち、その後は的確な指示で炭治郎たちを動かし、見事二百人の乗客を守り切ったものの、やはりもっと活躍して欲しかった――と思いきや!

 死闘の末にほとんど力を使い果たした炭治郎に突如襲いかかる影と、それを切り裂く炎。鬼殺隊抹殺に現れた上弦の参・猗窩座が炭治郎を狙い、そして杏寿郎に阻まれたのです。
 下弦とは桁外れの戦闘力を持ち、かつて幾人もの柱を屠ったという猗窩座。弱い者を見下し命を奪おうとする猗窩座に対し、炭治郎の強さを認める杏寿郎がついにその全力を見せることに……!


 この巻のサブタイトルは「上弦の力・柱の力」。いわば両陣営でのトップクラスの実力者同士の戦い――炭治郎たちとは一段も二段も上の者たちが、ここで激突することになります。
 凄まじい速度で驚異的な破壊力の拳を繰り出す猗窩座に一歩も引かぬ杏寿郎。その戦いは、野性の男・伊之助ですら(いや野性の男だからこそ)身動きを許さぬものであります。

 しかし哀しいかな、どれだけ猗窩座に痛撃を与えようとも、鬼の――それも上弦の鬼の再生力は尋常ではありません。死力を尽くした戦いの果て、唯一の勝機を見出した杏寿郎の見せた行動は、そしてそれがもたらした先にあるものは……
 この先は是非とも作品に当たっていただきたいので詳細は伏せさせていただきますが、ここで描かれたものは、杏寿郎にとっての強さ、人間としての強さと言うべきものにほかならないでしょう。

 猗窩座の強さが相手を傷つけ、叩き潰す――その一方で、己が認めた強者である杏寿郎を鬼にスカウトしようとする奇妙な律儀さもあるのですが――ものであるのに対し、杏寿郎の強さは誰かを守ろうとする心から生まれる力。
 それこそが圧倒的に不利な状況下においても杏寿郎が、そして炭治郎たちが鬼に戦いを挑む原動力であり、同時に鬼殺隊員の資格と言うべきものなのでしょう。
(かつて真っ先に炭治郎と禰豆子の処刑を主張した杏寿郎が、二人を認める言葉にグッとくる……)

 もちろん、一人の強さには限界があるかもしれません。しかしその強さは、強くあろうとする心は、人から人に受け継がれ、さらなる強さを生み出す――杏寿郎の言葉は、それを力強く語るのであります。
 そしてそれを真っ先に受け止めたのが、人の心というものに疎かった伊之助だというのがまた泣かせるではありませんか。

 その後も様々な波紋を残した杏寿郎ですが、しかし彼の勇姿は、言葉は、炭治郎たちはもちろんのこと、煉獄家の人の心をも必ず動かす――そう信じられるのであります。

(しかし、そんな感動的な展開の直後に、間髪入れずに包丁を振りかざす37歳を投入してくるという鬼のような緩急のつけぶりもまた、本作の真骨頂でしょう)


 そして戦いは新章へ突入します。メイクに宝石ジャラジャラの傲岸不遜なマッチョという、これまたキャラの立ちすぎた派手柱――いや音柱・宇髄天元(何と元忍び)とともに炭治郎・善逸・伊之助が向かうのは、何と色街!

 およそ彼らには似合わぬ場で炭治郎たち三人を待つ任務は――何となく予想が付いてしまうのですが、さてどうなることか。またもやとんでもない展開になりそうな雲行きであります。


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