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2017.10.10

鳥飼否宇『紅城奇譚』 呪われた城に浮かびあがる時代の縮図

 天正8年(1580年)、九州で島津家らがしのぎを削っていた頃、その豪勇ぶりで他家から怖れられていた鷹生龍政。主家を滅ぼし、居城と美しい姫君を奪った龍政は、その城を真っ赤な色に塗り、紅城と名を改めた。しかしその紅城で、龍政の周囲の人間が次々と奇怪な死を遂げていく……

 奇想に満ちたミステリを得意とする鳥飼否宇初の時代ミステリは、一種のゴシックロマンとも言うべき物語――真っ赤に塗り上げられた城を舞台に、そこに住まう暴君一族を巡る奇怪かつ陰惨な事件の数々を描く連作ミステリであります。

 戦国時代真っ只中の九州で、下克上を地で行くような形で成り上がった鷹生の当主・龍政。
 略奪したかつての主家の姫君・鶴姫を正室とし、雪・月・花の名を持つ三人の美しい側室を侍らせる龍政は、今が盛りとばかりに気ままな日々を送っていたのですが――ある日突然に恐るべき凶事が起きることとなります。

 城の井戸曲輪で首なし死体となって発見された鶴姫と、その直後に月見櫓から飛び降りて命を絶った雪。
 正室として一男一女を生んだ鶴姫と、懐妊中の雪――事件は妻妾の間の怨恨のもつれと思われたのですが……

 そんな『妻妾の策略』を皮切りに、本作は4つの怪事件を描くパートが中心となって構成されています。
 宴の最中、龍政の娘が汲んできた鶴姫秘蔵の酒を飲んだ者が怪死を遂げる『暴君の毒死

 龍政の息子をはじめとする若武者たちの弓比べで逸れた矢が思わぬ犠牲者を生む『一族の非業』
 ある雪の日、相次ぐ凶事に天守に籠もった龍政を襲う最後の怪事件『天守の密室』

 最初の事件を含め、いずれも加害者は明白に思われる事件の数々。それを受けて、龍政の暴君ぶりがさらに死者を増やしていく中、本作の探偵役は、全く異なる答えを示すことになります。

 その探偵役は、龍政の腹心である弓削月之丞――眉目秀麗にして知勇に優れた彼は、事件の背後に隠された真実を次々と解き明かしていくのですが……


 呪われた過去を持つ城という、一種の――空間的なだけでなく、精神的な意味でも――密室を共通した舞台に設定した本作。そこで繰り広げられる事件の数々は、いずれも趣向を凝らしたものばかりであります。
 機械的なトリックあり、心理の綾をついたトリックありと様々ですが、実に面白いのは、上で述べたとおり、一見犯人は明らかなようでいて、実は――と更なる真相が月之丞によって解き明かされるという、実に凝った構図でしょう(しかもさらに……)。

 個人的に特に印象に残ったのは、酒盃の中に投入された毒を巡る『暴君の毒死』であります。
 盃に注がれた酒の壺と毒の入った壺が近くに、しかし明確に外観でわかるように置かれていた、というシチュエーションから、これは○○ネタに違いないと思ってみれば――それを遙かに上回る怨念の系譜を感じさせるトリック(きちんと伏線も用意されていて)には、大いに唸らされました。


 そして謎解きもさることながら、本作はその舞台設定、物語構造もまた魅力的であると感じます。
 絶対的な暴君として城内の者の生殺与奪の権を握り、淫欲にふける龍政。本作で描かれるのは、紅城に君臨する彼の、そして彼の一族の末路であります。

 それはもちろん本作独自の物語であり、それ以前に紅城や鷹生龍政も(鷹生氏自体も)架空の存在であります。
 しかし、ここで描かれる龍政の生き様や、彼が過去に働いた所業、そしてそれ以上に作中で彼と彼の一族が図らずも働く所業――それはこの時代の縮図、戦国大名たちの姿の象徴であるようにも感じられるのです。

 正直に申し上げれば、物語が進んでいくにつれて、オヤ? という部分があり、物語の構造自体は途中で読めてしまう(こちらは最後まで予想通りでした)のはいささか残念な点ではあります。
 そこからもたらされる結末も、ある意味意外性はありません。

 しかしこうした点も含めて、奇想に富んだミステリであると同時に――そして戦国ゴシックとも言うべき世界を作り出しつつ――その中で戦国という狂った時代の縮図を描き出してみせた点に、僕は惹かれるものを感じるのです。


『紅城奇譚』(鳥飼否宇 講談社) Amazon
紅城奇譚

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