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2017.11.25

上条明峰『小林少年と不逞の怪人』第1巻 二十面相、人の中の「闇」を追う

 著作権の保護期間が終了したということもあってか、この数年に様々なアレンジで発表された江戸川乱歩作品。その中に、このブログ的には『SAMURAI DEEPER KYO』の作者である上条明峰の作品が加わりました。大正時代を舞台に、小林少年と、怪人二十面相こと明智小五郎が怪事件に挑む連作であります。

 時は大正、大胆不敵な手口で次々と盗みを重ね、そしてその過程で無数の警察官らの命を奪った恐れられる怪人二十面相。
 ただ一人その謎を追ってきた小林少年は、D坂の喫茶白梅軒で時間を潰す高等遊民の青年こそが怪人二十面相と確信し、彼を問い詰めるのですが――相手は馬耳東風、その間にD坂の古本屋の様子がおかしいことに気づき、二人で様子を見に行ってみればそこには!

 というのは本作の第1エピソード「D坂の殺人事件」の導入部。小林少年と怪人二十面相という存在を除けば、ベースとなった同名小説を踏まえた内容であります。

 果たして古本屋の女房が無惨な姿で殺害されているのを発見し、警察はあてにならないと独自に探索を開始する二人。
 着ていた着物の柄のために当の小林少年が容疑者扱いされたり(原典のアレであります)という展開はあったものの、怪人二十面相の活躍により事件は解決、半ばなし崩し的にそのままコンビを組むことになった小林少年に名を問われた怪人二十面相は答えます。「明智小五郎」と……


 かくて、「小林少年」と怪人二十面相=明智小五郎という意表を突いたバディを主人公に展開していく本作。この第1」巻の後半には、D坂とは一種の姉妹編とも言うべき「心理試験」が収録されております。

 どちらのエピソードも、基本的な物語設定や謎の所在は原典から大きく変わるところはありませんが――ここに主人公コンビという異質の存在が加わることにより、物語の様相は大きく変わっていくことになります。

 元々どちらの作品も原典では明智小五郎ものではありますが、小五郎自体はある意味脇役。そして小林少年も二十面相も、どちらの作品にも登場していないキャラクターであります。
 さらに本作の二十面相は(まだまだ謎は非常に多いものの)、己の中に深い「闇」を抱えると同時に、他の人間の「闇」の存在にも興味を抱く人物。

 その二十面相の目に、これらの事件の犯人の姿がどう映るのか――それが本作の大きなアレンジ点であり、そして肝であることは間違いありません。


 が、実のところこの点についてはどうかなあ――という印象。作中で描写される二つの事件の犯人たちの「闇」が、どうにも浅いものに見えてしまうというのが残念なところであります。

 これは一つには、彼らよりも遙かに深い「闇」を持つという設定の二十面相がいるため、それ以上の「闇」を持たせられないという構造的な理由があるかとは思いますが――しかし、ここでの「闇」の描写は、それでも類型的な描写に留まっていると言わざる得ません。

 類型的といえば、俺様な二十面相と、彼に振り回される生真面目な小林少年というシチュエーションも、どこかで見たような気もしますが、これはむしろ作者の味ということで歓迎すべきものと言うべきなのでしょう。

 いずれにせよ、この第1巻の時点では、いささか厳しい評価になってしまうのですが、しかしその一方で、原典のアレンジという点では本作には見るべき点も少なくありません。

 特に「心理試験」のクライマックスの心理試験のビジュアル化は効果的ですし(原典よりも被疑者が増えているのもいい)、二段三段の皮肉なオチも印象に残るものでありました。
 原典の活かし方も、小林少年の父親に、D坂の原典に登場した「当時の名探偵という噂の高かった小林刑事」を持ってくるなど、おっと思わされる点も少なくないのです。


 これら現時点の長所短所をいかに摺り合わせて、原典に新たな魅力を生み出してみせるのか。それはもちろん、この11月末にスタートする連載を見てみなければわからないのですが――しかし個人的には、この先の試みに期待したいと思っているところではあります。


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