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2017.11.08

永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第18巻 物語の広がりと、情や心の広がりと

 発売からずいぶんと間が空いてしまい恐縮ですが、『猫絵十兵衛 御伽草紙』の第18巻の紹介であります。これだけの巻数を重ねてもなお絶好調の本作、今回は思いもよらぬ世界からの来訪者が登場する、世界観の広がりを感じさせる巻であります。

 常人には見えぬものを見る力を持つ猫絵描きの青年・十兵衛と、その相棒で元・猫仙人のニタのコンビを狂言回しに、市井で起きる猫絡みの事件・出来事を、ユーモラスかつ情感豊かに描く連作シリーズの本作。
 20巻近く巻数を重ねてくれば、数多くのサブレギュラーも登場してきたわけですが、この巻ではその一人(?)にまつわる意外極まりないエピソードが、巻頭に収録されています。

 そのエピソードとは「猫妖精」――これまで何度も登場してきた猫好きの老住職・奎安和尚が、ある晩尋ねてきた異人たちに出会って以来、人事不省の身になってしまったことから、この物語は始まります。
 ニタの見立てによれば和尚は何者かに魂が抜かれてしまったとのこと。そこに現れたかつての和尚の飼い猫であり、今は根子岳で暮らす異国から来た猫・縹は、その犯人に心当たりがある様子であります。

 果たして十兵衛とニタ、縹の前に現れる三人の異人。縹が目的だという異人の正体とは……!

 第2巻というかなり初期に描かれつつも、今なお人気の高い縹と奎安和尚のエピソード。長毛種でオッドアイという、この時代の日本には極めて珍しい姿であることから忌避されてきた縹と、彼を受け容れ愛する和尚との心の絆には、私も泣かされたものですが……
 その後日譚というべきエピソードを、この角度から持ってくるか! と、一読大いに驚かされました。

 なるほど、人語を解する異国から来た猫とくれば、この線があったか(よく見てみれば、尾も二又に分かれていない=猫又ではないのにまた感心)と、妖怪その他大好き人間としては納得かつ大喜びのこの展開。
 異国の妖というのは、以前も登場したことがありますが、今回は猫ということでより本作のカラーにあった存在なのも嬉しく、そんな相手のことも知り尽くしているニタの何でもアリっぷりもいいのであります。

 そしてもちろん、縹と和尚の間の絆に、変わるところが全くないのもグッとくるこのエピソード、本書の表紙を縹が飾るのも納得の好編であります。


 ……と、冒頭のエピソードばかり大きく取り上げてしまいましたが、もちろんその他にもユニークな物語が並びます。
 猫町長屋を守ることになった小さな地荒神が、猫たちと一緒に災いを払うために奮闘する「神の月猫」
 迷子になった猫を探してまじないを記す父子と猫の絆「まじない猫」
 とある村で村長の娘を狙う妖怪がニタを恐れていると知り、妖怪退治に乗り出した十兵衛たちが意外な真実を知る「歳除猫」
 戯作者の初風先生と愛猫の小春のある日を描く「小春 初風の一日」
 お人好しの椋鳥=地方からの出稼ぎの男と猫を助けるため、十兵衛と西浦さんが一肌脱ぐ「椋鳥猫」
 自分の描きたいものが見つからず苦しむ弟弟子に、十兵衛が与えた助言を描く「三ノ猫」

 今回も妖怪あり神さまあり、人情ありとバラエティに富んだ内容ですが、相変わらず高い水準というのは共通点であるのは間違いありません。

 そんな中、これらの物語の中で十兵衛たちが「情」を示す際の態度が、ある種博愛的であるのが個人的に嬉しい。

 例えば「歳除猫」で他の物語であれば退治されて終わりになりそうな妖の身になって怒る、「椋鳥猫」で田舎者の自分のためにと恐縮する男に「助けに国は関係ねぇぞ」とさらりと答えてみせる……
 人も出自も関係なく、分け隔てのなく示される十兵衛たちの「情」と「心」の存在が、何とも沁みるのです。


 海を越える物語の広がり、十兵衛たちの情と心の広がり――本書でもまだまだ広がる物語が、実に心地よい作品であります。


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