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2017.11.22

『決戦! 関ヶ原2』 東西の大戦、再び!

 戦国のみならず、江戸や幕末にも広がっていった『決戦!』ワールドですが、ここで二週目と言うべきか(あるいは映画『関ヶ原』合わせと言うべきか)、再びの関ヶ原の登場であります。今回も7人の作家が、関ヶ原に戦った7人の武将を描くことになります。

 ある歴史上の大戦に参加した武将一人ずつを主人公とした作品を描く『決戦!』シリーズ――その第1弾である『決戦! 関ヶ原』には、徳川家康・可児才蔵・織田有楽斎・宇喜多秀家・島津義弘・小早川秀秋・石田三成を主人公とした作品が収録されていました。

 そして本書もまた、以下の豪華作家陣が、力作を投入しています。
『ダミアン長政』(葉室麟): 黒田長政
『過ぎたるもの』(吉川永青): 島左近
『戦さ神』(東郷隆): 仙石久勝
『名だけを残して』(簑輪諒): 小川祐忠
『蜻蛉切』(宮本昌孝): 本多忠勝
『秀秋の戯』(天野純希): 小早川秀秋
『燃ゆる病葉』(冲方丁): 大谷吉継

 と、ここでまず先に厳しいことを言ってしまえば、各作品の主人公となる武将については、さすがに二週目ゆえと言うべきか、第1弾に比べれば、少々見劣りするという印象があります(そしてその一方で、小早川のみ再び登場というアンバランス)。
 その点は少々残念ではあるのですが――しかしそれが内容の評価に直結するものではないことは、言うまでもありません。

 その格好の例と言うべきものが、間違いなく本書の主人公の中では最もマイナーな人物であろう小川祐忠を主人公とした、『名だけを残して』であります。

 転々と主君を変えて――というより旗色の悪くなった側を見限って――数万石の大名にまで出世した小川祐忠。
 ただ己の命だけを大事に考え、武士の体面を重んじる者に後ろ指を指されても意に介さず(そしてそんな人々を猪武者と嘲って)生きてきた彼が、老境に差し掛かって初めて、武士としての「名」を求めるようになった――という視点に、まず唸らされます。

 そんな彼が西軍として参加した関ヶ原の戦――その決戦前夜、大谷吉継に呼び出された彼は、脇坂安治ら三人と共に、寝返りの疑いのある小早川秀秋の警戒を命じられます。
 これまでの経歴が経歴だけに、周囲から疑いの目を向けられる祐忠。しかし今度ばかりはと決意を固めた彼の姿に、脇坂らも熱い血を沸き立たせて……

 と、はみ出し者が奮戦する物語に弱い身としては、グッとくる展開なのですが――この先の彼らの行動は、史実にある通り。
 人間の心のあまりの弱さ、歴史の流れのあまりの皮肉さが、グサリグサリと胸に刺さる本作。その陰に役者が違う吉継の策士ぶりがほのめかされるのも、見事であります。


 その他、特に印象に残った作品を挙げれば、『蜻蛉切』と『秀秋の戯』でしょうか。

 『蜻蛉切』は、その名の槍を振るったことで知られる徳川の守護神・本多忠勝の一代記とも言うべき物語。あまり関ヶ原で活躍した印象のない忠勝ですが、本作はその豪勇ぶりを、なんと5才の頃から描くことになります。

 信長を、信玄をも唸らせたその颯爽たる勇姿を描く――そして忠勝を認める側の格好良さも際立たせる――本作は、まさしく作者の作品ならではの爽快さに溢れてた物語(関ヶ原での島津豊久との激突もまた泣かせる)。
 その一方で、タイトルの「蜻蛉切」に秘められた彼の真意、そして犬猿の仲であった本多正信の存在など、伝奇性も薄くないのが嬉しいところであります。

 一方、『秀秋の戯』は、秀秋を愚鈍でも意志薄弱でもなく、そして悲劇の人物でもなく、言うなれば「さあ、ゲームを始めよう」系の人物として描く意表をついた作品。
 空虚を抱えて生きるうち、戦の中でのみ生を実感するようになった秀秋。その想いは、やがて自分が戦うよりも、人を動かして戦わせることに向かうようになり、ついには関ヶ原でそれが頂点に達するのであります。

 裏切り者としての側面ばかり印象に残るものの、考えてみれば秀秋は東軍と西軍をある意味(物理的な位置も含めて)俯瞰する立場にいた人物。
 その彼なればこその視点から描かれる本作は、この特異な戦いを描く本書を締めくくるにふさわしい一編であったと感じます(実際には巻末ではないのは残念!)


 その他の作品も、それぞれに趣向が凝らされていた本書。今回も、おそらくは読む人によって印象に残る作品が異なるかと思いますが、バラエティに富んだ中身の濃いアンソロジーであることは間違いありません。


『決戦! 関ヶ原2』(葉室麟ほか 講談社) Amazon
決戦!関ヶ原2


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