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2017.11.20

森美夏『八雲百怪』第3巻 還ってきた者と異郷の鬼と

 大塚英志の民俗学三部作の一つが、実に9年ぶりに復活しました。あの小泉八雲を主人公に、明治の世から失われてゆく古きもの――妖怪や神、異界の姿を描く連作シリーズの最新巻の登場であります。この巻でもまた、思いも寄らぬ奇怪な事件に巻き込まれる八雲が、その隻眼で見るものは……

 幼い頃に片目の視力を失い、この世のものならぬものを見る力を持つラフカディオ・ハーン。
 流浪の果て、古きものたちが息づく日本にたどり着き、小泉八雲の名で日本人となった彼は、次々と奇怪な事件に巻き込まれ、その中で常人ならざる者たちと関わりを持っていくことになります。

 額に第三の目を持つ押し掛け弟子の会津八一。普段は目を包帯で覆い、この世と異界を繋ぐ門を封じて回る怪人・甲賀三郎。はじめは三郎と行動を共にし、今は八雲邸に住み着いた生き人形のキクリ様――
 いずれも異界を見る力を持つ者たちとともに、八雲は新しい時代にはあってはならないモノとして消されていく者たちの目撃者となるのです。


 そんな基本設定で展開する本作ですが、この第3巻の前半に収録されているのは、おそらくは単行本のページ数の関係で収録されてこなかったと思われる、9年前に雑誌連載されたエピソード「狢」であります。

 娘を亡くして以来、学校に出てこなくなった同僚の様子を見に行くことになった八雲。男の屋敷には、のっぺらぼうが出没するらしいと聞かされて興味を持ち、キクリさまと共に男の元を訪れた八雲は、果たしてそこでのっぺらぼうと対面することになります。
 古から伝わるという秘術により、遺骨から愛娘を蘇らせたという男。しかし蘇った娘はのっぺらぼうだったのであります。

 一方、変人科学者の土玉が、のっぺらぼうの子供たちを集めていることを知り、彼を脅しつけて、どこからのっぺらぼうがやって来たかを聞き出す三郎。
 子供の親たちが、いずれも何処からか現れた巨大な「鬼」と出会い、その手ほどきによって子供たちを蘇らせたと知った三郎は、鬼を追った末に、同僚の男に監禁された八雲とキクリさまの前に現れるのですが……

 八雲の『怪談』によって広く人口に膾炙することとなったのっぺらぼう=狢。夜道でのっぺらぼうと出会った男が、逃げていった先で出会った夜泣きそば屋にこれを語るも、そば屋の顔も――というお話であります。

 本作はこれを巧みに換骨奪胎し(ちゃんと本物の(?)のっぺらぼうのそば屋も登場するのが楽しい)、新たな物語を生み出しているのですが――いやはや、いつもながら驚かされるのは、伝奇三題噺と言いたくなるような組み合わせの妙であります。

 のっぺらぼうと、○○の秘術と、○○○○○○○○○○の怪物と――未読の方の興を削がないように伏せ字にさせていただきましたが、よくもまあ、この三者を組み合わせたものだと感嘆させられます。
(実は後二者については先駆がないわけではありませんが、本作はさらにその先というか根元に踏み込むわけで……)

 物語的に、娘を蘇らせた男の真実については容易に予想できてしまうのですが、それをきっかけに、異郷の鬼がその真の姿を現すという展開は予想の遙か上を行くもの。
 さらにそこに物語作者としての八雲が絡むことにより、不可思議で、そして何とも切ない余韻が残るのも見事と言うほかありません。

 そして物語的には今回は脇役だった三郎――これまで冷然と異界の門を処分してきた彼が、どこか同情や哀惜めいたものをうかがわせるのも印象に残ります。
 それと同時に、彼が物語の前に「敗北」する姿も……


 そして後半に収録された「隘勇線」は、これまたとんでもない組み合わせが猛威を振るうエピソード。あの八甲田山死の行軍の背後には、伝説のコロポックルの存在があり、さらにそこに日露戦争に備えた軍の極秘の計画が……という展開には、良い意味で開いた口が塞がりません。

 その一方で、八雲の前には台湾からやってきた原住民の少年(伊能嘉矩絡みというのにニヤリ)が現れ、彼もまたコロポックルを求める旅に出ることに――ということになるのですが、この巻に収録されているのはエピソードの途中まで。

 何とも気を持たせる展開ですが、幸い来月には第4巻の刊行が予定されているところ、これまで待たされた分、存分に楽しませていただこうと思います。

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