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2017.11.27

DOUBLE-S『イサック』第1巻・第2巻 恩と仇討ちを背負った日本人、三十年戦争を行く

 17世紀にヨーロッパ諸国を巻き込んで繰り広げられた三十年戦争。その戦場に、日本から海を渡ってやってきた「銃士」がいた――そんな刺激的な物語が、端正かつ迫力ある画で描かれる歴史漫画であります。

 時は1620年9月、プロテスタント諸国とカトリック諸国の激突の最前線である要衝・フックスブルク城にただ一人現れた東洋人傭兵。
 城攻めの悪魔と称されるスピノラ将軍率いる九千のスペイン軍に恐れをなして他の傭兵たちが逃げ去った中にただ一人残った彼は、イサックと名乗り、城将たるフリードリヒ五世の弟・ハインリッヒの軍に加わることになります。

 そしてスピノラの軍の総攻撃が始まった絶望的な状況の中、イサックは一瞬の勝機を狙い、思わぬ行動に出るのですが……


 正式な呼び名があるのかは存じ上げませんが、「海を渡った日本人武士」もの、とでも呼ぶべき作品は以前から存在します。

 鳥海永行『球形のフィグリド』、佐藤賢一『ジャガーになった男』、新宮正春『ゼーランジャ城の侍』……
 これらはいずれも小説ですが、日本人のメンタリティを持ったキャラが異郷で戦う意外性、そしてそんな孤独な戦いを続ける男たちの背負うドラマが、こうした作品の人気の源と言えるかもしれません。

 そして本作もまさしくそんな物語の一つであります。
 寡黙ながら超凄腕のスナイパーであり、そして「恩」と「仇討ち」を行動原理として動く男・イサックが、三十年戦争初期の動乱の中、長大な銃一つを頼りに生き抜く物語とくれば、気にならないわけがありません。

 上に述べたスピノラ軍との対決の後も、スペイン王太子アルフォンソ率いる一万五千の大軍を、城の傭兵隊が去り、自らも深手を負った身で迎え撃つなど、絶望的な状況を次々とひっくり返していく彼の活躍は、なかなかに痛快であります。

 しかしそんな腕利きの彼が、故国から遠く離れた異郷で戦いに加わっているのは何故か? というのは読者として当然の興味ですが、こちらも面白い。
 銃職人である彼の親方を殺し、彼の手にあるものと対になる銃を奪った男・ロレンツォ――日本を捨て、傭兵となった仇を追い、イサックもまた、傭兵となったのであります。

 彼らの過去に何があったのか、それはまだ完全には描かれていませんが、第2巻のラストで対峙したロレンツォの口からは意味深な言葉が残されており、この辺りのドラマも気になるところではあります。


 もっとも、正直なことをいえば、第1巻の時点では興味深いは興味深いものの、物語の進行スピードが若干遅く感じられ、どうかなあ――と思わされたところはあった本作。
 しかし第2巻に入って早々の大乱戦や、宿敵ロレンツォの登場と、物語も大きく動き出し、この先の展開が楽しみになってきました。

 何よりも、三十年戦争という、我々には今一つ馴染みの薄い史実を、この先イサックの存在を通して如何に描くのか――これは大いに気になるところではあります。
(ちなみに本作、実は第1話の時点で史実と大きく異なる部分があったのですが、それを後で軌道修正する力業が楽しい)

 次から次へと、ギリギリの戦場に放り込まれることになるイサック。史実通りであれば、この先も大変な展開が待ちかまえているはずですが――その中で彼が「恩」を貫き、「仇討ち」を果たすことができるのか。
 第2巻ラストも大ピンチで終わった本作、次巻が気になるところであります。


『イサック』(DOUBLE-S&真刈信二 講談社アフタヌーンKC) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
イサック(1) (アフタヌーンKC)イサック(2) (アフタヌーンKC)

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