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2017.11.11

岡田秀文『帝都大捜査網』 二つの物語が描き出す怪事件

 最近では歴史小説家と並んで、(時代)ミステリ作家としての印象も強い岡田秀文が、戦前の東京を舞台に、猟奇連続殺人に挑む警察の特捜隊の姿を描く警察小説――と見せかけてとんでもないもう一つの顔が用意された、実に作者らしいトリッキーな長編であります。

 二・二六事件を経て、表面上は安定を取り戻した昭和11年の東京で発見された男の刺殺体。体に幾つもの刺し傷があったその死体は、身元を示すものはあったものの、どこでなぜ殺されたかは一切不明――そんな死体が一つにとどまらず連続して発見されたことから、警視庁の特別捜査隊の郷咲警視はこれを連続殺人事件とみて特別捜査態勢を引くことになります。

 しかし殺された男たちの間には交友関係などは一切なく、共通しているのは、全員が多額の借金を負い、そして周囲から金を騙し取って姿を消していることのみ。
 そんな状況の中、一つ一つ地道に証拠を当たりつつ事件の全貌を追う特捜隊ですが、状況は打開できず、ただ死体の数が増えていくばかりとなります。

 そんな中、郷咲の娘であり秘書、そして何よりも彼の知恵袋である多都子は、最初の死体の刺し傷が7つ、二番目が6つ、三番目が4つであったことから、どこかに発見されていない死体――5つの刺し傷を持つ死体が存在することを指摘します。
 それが真実であったとしても、何故刺し傷は減っていくのか? 答えの出ないまま、懸命の捜査を続ける特捜隊は、ついに被害者たちの共通点を発見するのですが……


 いかにも警察小説らしく、丹念に、地道に特捜隊の捜査の模様が描かれていく本作。しかし本作はある程度まdきて、意外な、そして全く別な姿を露わにすることになります。
 第一章が終わり、第二章に入って物語の視点は変わり、登場するのは株で大失敗して全てを失った男・貝塚。全財産を失い、どん底まで落ちた彼は、ある男からの提案を受け容れたことで、更なる地獄へと足を踏み入れることになって……

 と、この貝塚らどん底の人間たちが織りなすこのもう一つの物語は、ジャンルでいえば暗黒小説――というよりむしろここしばらく流行のデ○○○○ものと言うべき内容で、いやはや、全く予想もしなかった展開に、こちらは驚かされるばかりであります。

 作品の内容が内容なだけに、これ以上は触れるのが難しいのですが、郷咲警視のパートと貝塚のパートと、一見全く別々のこの二つの物語は、密接な関係を――いわばコインの裏と表として――持つことがやがて明らかになります。
 一歩間違えれば、互いの物語の内容を台無しにしかねないこの物語構造ですが、しかしもちろんそんなことになるどころか、むしろ巧みな構成により、互いの緊迫感を煽る効果を上げているのはお見事と言うほかありません。

 それに加えて、本作には更なるとんでもない爆弾が隠されているのですが――さすがにこれについては触れることはできません。あまりにも意外な(しかし読み返してみればきちんと伏線がある)この仕掛けには、ただ脱帽であります。


 が、そのように優れてトリッキーな作品である一方で、本作に不満点がないわけではありません。

 (そのような物語構造ゆえ仕方ないとはいえ)犯人の行動には少々無理があるように感じますし、事件を解明するきっかけとなったのが、冷静に考えればかなり偶然に近い(因縁話的な)きっかけに見えてしまうのも悩ましいところであります。
 何よりも、すぐ上で述べた大どんでん返しも、果たして本作で描く必然性があったのかどうか、評価が分かれるところではないでしょうか。

 さらに、本作がこの時代と場所を舞台とする必然性が今ひとつ薄く感じられた(この時期に実際に起きた事件を一つの背景にしているのですが)のが、個人的には残念なところではありました。


 とはいえ、それらを考慮に入れてもなお、本作がミステリとして十分以上に刺激的で、まさしく一読巻を置くあたわざる作品であることは間違いありません。
 やはり作者のミステリは油断できない――そう再確認させられた次第であります。


 それにしても本作でもう一つの物語の舞台となった場所、あれはやはりあの作品の……


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帝都大捜査網

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