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2017.11.19

山本巧次 『開化鐵道探偵』 端正な明治ものにしてミステリ、しかし

 ユニークな時代ミステリ『八丁堀のおゆう』シリーズで人気を博した作者が、本来のホームグラウンドというべき鉄道の世界を――それも、明治初期の創成期を舞台に、鉄道工事の妨害工作に挑む元八丁堀同心の活躍を描く作品であります。

 明治12年、京都ー大津間の鉄道建設が佳境にさしかかる中、難所・逢坂山トンネルの工事現場で続発する、測量結果の改竄や落石事故などの不審な出来事。
 政治的にも微妙な状況の中、あるいは妨害工作かと事態を重くみた鉄道局長にして長州五傑の一人・井上勝は、技手見習の小野寺に命じて、元八丁堀同心の草壁賢吾を探偵役に招こうとします。

 八丁堀では切れ者として知られ、その才を評価する者も多いにもかかわらず、新政府からは距離をおいて市井に暮らす草壁。
 しかし井上の熱意に押された彼は、小野寺を助手に、逢坂山の工事現場に向かうのですが――待ち受けていたのは、工事を請け負う藤田商店の社員が鉄道から転落死したという知らせでした。

 早速これが事故ではなく殺人であることを見抜いた草壁ですが、犯人が何者で、何故殺人を犯したかは五里霧中の状態。
 工事現場では線路工夫たちとトンネル工事の鉱夫たちが対立し、さらに鉄道工事に批判的な地元住民との軋轢が強まる中、なおも不審な事件は続き、さらなる殺人までもが……


 そんな本作の印象を表せば、ミステリとしても明治ものとしても、「端正」という一言であります。
 『八丁堀のおゆう』が、タイムスリップで現代と江戸の二重生活を送るヒロインという意表を突いた内容であったのに対し、本作は、あくまでもこの明治初期の鉄道を取り巻く状況を丹念に語り、そしてそこで起きる事件の姿を丁寧に描きます。

 特にミステリ面については、事件の内容もトリックも飛び抜けて意外なものではないのですが、そのいずれもが実にフェアと言うべきもの。
 「名探偵 皆を集めてさてと言い」を地で行くクライマックスで一つ一つ解き明かされていくる真相も、どれも納得がいくものであったと思います。

 また、時代ものとしても、西南戦争直後の、勢力が衰えた薩摩が巻き返しを図っている時期、そして諸外国の影響や干渉下から何とか日本が逃れようとしている時期という時代背景が物語と密接に関わっているのが嬉しい。
 このご時世には受けそうなくすぐりもあり、まず時代ミステリとしてはよくできた作品であると言ってもよいかと思います。


 ……が、残念ながらそれが物語として面白いかといえば、素直に頷けるわけではないと、個人的には感じます。

 物語設定的にはやむを得ないとはいえ、物語がほとんど工事現場とその周辺のみで展開するために、物語に広がりと起伏が感じにくい(ラスト近くまで事件ー聞き込みの繰り返しに見えてしまう)のがまず大きな点ではありますが、キャラクターに魅力を感じにくいのも残念なところであります。

 高官であるにもかかわらず現場で工夫に混じって体を動かす井上勝や、無愛想で強面ながら人間味のある外国人機関手はなかなか面白いのですが、主人公たる草壁がそれほど強烈なキャラクターではないのがつらい。(彼が新政府に出仕しない理由は非常に面白いのですが……)
 助手の小野寺がお供以上の存在感がないのも苦しく、その他の登場人物も、少々数が多すぎるのではないか――という印象があります。


 と、結果としてかなり厳しい評価をすることとなってしまいましたが、先に述べたとおり、光る部分も数多いのは間違いないことでもある本作。

 まだまだ明治期の鉄道は興味深い題材だらけの宝の山であるはず。本作の魅力を踏まえた、更なる作品を楽しみにしたいと思います。

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