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2017.11.24

さとみ桜『明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業 二』 怪異の陰の女性たちの姿

 明治時代初期を舞台に、妖怪にまつわる新聞記事を使って人助けを行う一味に加わった少女・香澄の活躍を描くシリーズの第2弾であります。一味にも馴染み、自分の生き方を模索する香澄ですが、この巻では意外な強敵が現れることに……

 とある事件をきっかけに、日陽新聞社のグータラ記者・久馬と、彼の相棒で役者崩れの美男子・艶煙と知り合うことになった香澄。
 久馬と艶煙たちが、ある事件を妖怪絡みに仕立て上げ、その陰で人助けを行っていることを知った彼女は、その手伝いをしたのをきっかけに、一味に加わることになります。

 開明的な父の許可を得て、新聞社で小間使いとして働くようになった香澄は、怠け者で自分を子供扱いする久馬の態度に苛立ちながらも、様々な事件解決のために奔走することに……


 という設定の本シリーズですが、基本的に本作でもそのスタイルは変わることはありません。

 芸者に手を出して子供を作った上に手酷く捨てた男に、久馬と艶煙の一座が復讐の芝居を仕掛ける「産女の怪」。
 久馬が通う道場の周囲でのっぺらぼうの目撃譚が広まり、道場の一人娘が翻弄される「のっぺらぼうの怪」。
 間違って国庫に納めてしまった本を取り戻しにきた田舎役人が、思わぬ盗難騒動に巻き込まれる「河童の怪」

 実はどのエピソードも実際に妖怪が登場するわけではなく、その噂を用いた一種の情報戦を仕掛けるという形なのですが、派手さはないものの、安心して楽しめる人情譚とでも言うべき内容となっています。


 さて、そんな本作を構成する3つのエピソードに共通するものを探すとすれば、それはこの時代に生きる「女性」の在り方と言えるのではないでしょうか。
 不実な男に翻弄される芸者、父の道場を畳んで新たな商売を目指す娘、そして何よりも、自分のやりたいこと、やるべきことを求めて外の世界に出ようとする香澄……

 それぞれに全く異なる姿ではありますが、明治という新たな時代の中で、懸命に自分自身の明日を求めて生きているという点で、彼女たちは皆等しい存在といえます。
 そして本作での久馬たちの活躍は、彼女たちの生を守り、導くためのもの――いささか格好良く表現すれば、そう言えるかもしれません。

 もっとも、そんな中で香澄はかなり恵まれた存在、当時としては破格の生き方をしている女性であります。
 いかに開明的な家庭とはいえ、職業婦人も珍しい時代に、嫁入り前の娘が男に立ち混じって働く――これは滅多にあったことではないでしょう。

 もちろんそれは、お話の中の一種のファンタジーではあるのですが――しかし本作はそれを自覚的に取り上げ、香澄自身に、彼女のいわばモラトリアムの意味を幾度となく突きつけることになります。
 その役割を果たすのが、彼女の兄・主計――文部省に奉職するお堅い役人である彼は、彼女が外で働くことを、そして彼女の近くに久馬がいることを快く思わず、何かと口を挟んでくる強敵として描かれることになるのです。

 この辺りは少々お約束的なものも感じますが、しかし物語にあまりギスギスしたものを感じさせずに(ファンタジーとしての枠を壊さずに)、香澄の立ち位置を冷静に問い直させるというのはうまい構造だと感心いたしました。
 もちろんその役割を果たしているのは、主計だけではなく、物語に登場する、明治という時代の制約を受けた他の女性たちも(一種の鏡の形で)含まれることは言うまでもないのですが。


 何はともあれ、兄を向こうに回しつつも、一歩一歩、自分自身というものを固めつつある香澄。
 久馬への想いにほとんど全く気づいていないのがもどかしいといえばもどかしいのですが、これはまあ置いておきましょう。

 「妖怪もの」を期待するとどうかと思いますが、丁寧な物語作りが心地よい「女性小説」であります。


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