« 森美夏『八雲百怪』第3巻 還ってきた者と異郷の鬼と | トップページ | 『決戦! 関ヶ原2』 東西の大戦、再び! »

2017.11.21

小島剛夕『孤剣の狼』 孤剣士、乾いた厳しい世界を行く

 先日ご紹介したように、「コミック乱ツインズ」2017年12月号に掲載された小島剛夕『孤剣の狼』が、雑誌発売とほぼ同じ時期に電子書籍化されていました。昭和43年と昭和45年に雑誌連載された、放浪の剣士・ムサシ(無三四)の死闘旅を描く連作シリーズであります。

 舞台となるのは江戸時代初期――大坂の陣直後で戦国の遺風が色濃く残る時代――愛馬クロを供に、伊吹剣流なる流派を操る凄腕の男・ムサシが旅する先で出会う数々の事件を描く本作。
 このムサシ、決して正義の味方などではなく、何か事件があればそれをきっかけに己の流派を売り込もうとする男ですが、しかし存外人が良く、思わぬ貧乏くじを引かされたりするのは、まずお約束というべきでしょうか。

 そしてそんな孤狼のような男が主人公であるだけに、登場する人々もまた、並みの連中ではありません。
 侍の苛斂誅求に対し恋人や村の人間を売っても生き延びようとする農民、仇持ちの身を利用して周囲にたかる侍とそれにさらにたかる用心棒等々、とにかくドライでハードなキャラクターと物語が次々と描かれることになります。

 こうした乾いた世界の中で旅を続けるムサシですが、実は彼の背後には大きな秘密があります。
 実は彼の師・草薙小平次は、柳生忍群の抜け忍。凄腕の忍びとして恐れられ、数多くの忍びを道連れに倒されたかに思われた小平次は、密かに生き延びて柳生忍群に代わる忍び集団を作り上げ、天下に覇を唱えんとしていたのであります。

 そしてムサシはいわばその企ての広告塔とも言える存在――伊吹剣流の名を喧伝し、柳生新陰流を倒すことで、師の企てを(半ば間接的に)助けていたのであります。
 もちろんこの設定を見れば察せられるように、小平次もまた善人などではなく、己の野望のためであれば、ムサシをはじめとする弟子たちを平然と犠牲にする人間なのですが……

 こうして時代ハードボイルドとも言うべき世界を描く小島剛夕の筆は、もちろん見事の一言。執筆時期的に、劇画作家として脂の乗りきっていた時期だけに、時に荒々しく、時に繊細な筆は、ムサシをはじめとする人々の交錯を巧みに描き出します。
 設定的に、剣戟だけでなく激しい忍者同士の戦いが描かれる本作ですが、様々なシチュエーションで描かれるアクションの数々は、さすがの迫力であります。


 さて、冒頭で述べたように、昭和43年と昭和45年に連載された本作は、今で言えば第一シーズンと第二シーズンとも言うべき内容となっています。

 上で述べたように、伊吹剣流の名を上げるべく柳生と戦いながら旅するムサシを描いた第一シーズンは、ムサシが思わぬ形で伴侶を得たところで終了。
 そして第二シーズンはその数年後、剣の道を捨てて平和に暮らしていたムサシが、再び姿を現した小平次に大事なものを奪われ、それを取り返すために伊吹流を追って旅に出ることになります。

 このように前半と後半で大きな物語の方向性も敵も異なる本作、こうしたストーリー展開のためか、後半のムサシは、それまでに比べてだいぶ性格が丸い――というか人情もろくなっているのも面白いのです。

 しかし残念なのは、今回の電子書籍版は、エピソードが全て収録されている訳ではないことであります。
 こちらのサイトの作品リストによれば、本作は前半10エピソード、後半6エピソードで構成されているのですが、電子書籍版では前半6、後半5のエピソード。エピソード数でおよそ三分の二(おそらくページ数的にはもっと少ないのではないでしょうか)、連載最終エピソードも収録されていない状況です。

 この辺りの理由はわかりませんが――そして以前の単行本が完全収録だったのかもわかりませんが――やはり全てのエピソードを読みたかった、という気持ちは否めないところではあります。
(どうやら連載時でも物語は完結していないようですが……)


 もっとも、今回の電子書籍版に収録されたエピソードだけでも、本作は面白いのは上に述べたとおり。
 かなり安価ということもあり、今回の「コミック乱ツインズ」誌での再録に興味を持った方であれば、まず読んでみて損はない――というより必読と言ってもよいのではないか、と思います。

『孤剣の狼』(小島剛夕 グループ・ゼロ) Amazon
孤剣の狼


関連記事
 『コミック乱ツインズ』2017年12月号(その一)

|

« 森美夏『八雲百怪』第3巻 還ってきた者と異郷の鬼と | トップページ | 『決戦! 関ヶ原2』 東西の大戦、再び! »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/66063266

この記事へのトラックバック一覧です: 小島剛夕『孤剣の狼』 孤剣士、乾いた厳しい世界を行く:

« 森美夏『八雲百怪』第3巻 還ってきた者と異郷の鬼と | トップページ | 『決戦! 関ヶ原2』 東西の大戦、再び! »