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2017.11.14

小松エメル『一鬼夜行 鬼姫と流れる星々』 天狗たちの戦いの先の謎と恋情

 絶好調の『一鬼夜行』シリーズ、待望の第9弾の登場であります。妖怪の力を失い妖怪相談処を開いた猫又鬼・小春と、彼を居候させている小道具屋の若主人・喜蔵の凸凹コンビが今回巻き込まれるのは天下一の天狗を決める大バトル。しかしそこにはなんと、喜蔵の妹である深雪が絡んでいたのであります。

 宿敵・猫又の長者との死闘の末、妖怪としての力の大半をなくした小春。喜蔵の営む荻の屋に居候することになった小春は、勝手に妖怪相談処を開業し、おかげで喜蔵は妖怪が持ち込むおかしな事件に次々と巻き込まれることになって……
 という設定で、前作から始まった第二部。相変わらず力を失ったまま、それでも生意気さと大食らいは相変わらずの小春は、今回も元気に喜蔵を振り回しては、その度に彼の閻魔顔に睨まれてビビる毎日であります。

 そんなある日、妖怪相談処に現れたのは、若い天狗の疾風。近々開かれる天下一の天狗を決める大会で優勝を目指す疾風は、かつて大妖怪として知られた小春に弟子入りしたいというのです。
 持ち上げられて有頂天になった小春は弟子入りを許可、早速役に立つのか立たないのかわからない特訓を開始するのですが……

 その一方で、荻の屋に居着いた付喪神たちの意味深な会話に気付いた二人。探ってみれば、最近しばしば家を空けている喜蔵の妹・深雪が、常人とは思えぬ力を発揮して街中で人助けを繰り返しているではありませんか。
 思い起こせば以前の事件で、小春の宿敵である裏山の天狗・花信と、何やら「契約」を交わした深雪。その内容が気が気ではない喜蔵ですが、深雪は何も話そうとしません。

 そして訪れる天狗の大会の日、疾風の身内として大会に招かれた喜蔵と小春が見たのは、真の力を発揮する疾風と――それ以上の恐るべき力で次々とライバルを倒していく、意外すぎる人物。
 さらに天狗面を被った「異端の者」までもが乱入し、事態はいよいよ複雑怪奇なものとなっていきます。

 果たしてこの大会の裏に何があるのか。そして意外な人物の力の正体と思惑は。全ての鍵を握るのは、疾風や異端の者が狙う花信と思われたのですが……


 と、今回も快調に展開していく本作。謎めいた過去の情景に始まり、喜蔵と小春のテンポが良すぎて楽しすぎるいがみ合い(本当に何度吹き出したことか)が展開したと思えば、やがて物語は大いに曇らされる真実を語り、そしてその先に切なくも感動的な結末が――というスタイルは、今回も健在です。

 内容的には、いくつかの物語が連作的に描かれた前作に比べると、物語の大半が天下一天狗会(?)で展開する本作はかなりシンプルな印象も受ける(登場するレギュラー陣も喜蔵・小春・深雪・綾子と最小限)のですが、そこで展開する内容は、濃厚、の一言。
 舞台が舞台だけに次々と描かれる派手なバトルもさることながら、それと密接に絡み合いながら語られる、過去から続く骨肉の争いと因縁には、ただ圧倒されるばかりなのであります。

 そして何よりも驚かされるのは、その先で明かされるある真実なのですが――妖怪ものだからこそ成立する、一種の叙述トリックとすらいえるそれは、本作をして「ミステリ」と呼ぶのに躊躇わせるものではありません。


 しかし――本作の真の魅力は、泣かせどころは、これらを全て飲み込んで展開した物語の、そのまた先にあります。

 本作のタイトルロール(鬼姫)であり、作中で幾つもの謎めいた言動を見せる深雪。
 これまでの物語ではその性格もあって一歩引いた立ち位置のことが多かった彼女は、本作においてその真情を明かすことになります。

 果たして本作の、さらに言えばこれまでの彼女の行動の陰に如何なる想いがあったのか――それが明かされた時の衝撃たるや、ただ天を仰いで嘆息することしかできません。
 そしてその直前の描写を読み返せば、もう胸が潰れるような想いに襲われるのです。

 妖怪ものであり、ミステリでもあった本作。しかしその真実の姿は、紛れもない「恋愛小説」であった――そう申し上げるほかありません。


 果たして本作で語られた真実が、この先物語に如何なる影響を与えるのか――それはもちろん現時点ではわかりませんが(早く続編を!)、これまでよりももっともっと、本シリーズがこの先どこに向かうのか、どのような結末を迎えるのか、気になって仕方がなくなったことだけは間違いないのです。


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