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2017.11.18

鳥野しの&あかほり悟『御用絵師一丸』 漫画で帰ってきた御用絵師!

 約二ヶ月前に発表された作品にこの表現も恐縮ですが――御用絵師一丸が帰ってきました。あかほり悟(さとる)が白泉社招き猫文庫で発表した時代小説シリーズが、ヤングアニマル誌において、小説版の表紙絵を担当した鳥野しの漫画化されたのです。

 西ノ丸大奥の主・広大院に仕える御用絵師・一丸。御用絵師という身分をありがたがるでもなく、むしろ迷惑げな彼のもう一つの任は、広大院の命により裏の仕置きを行うことであります。
 時あたかも水野忠邦が老中首座に就いていた頃――強引な改革を進める忠邦が、幕府の権力強化のために諸藩を潰そうと配下の鳥居耀蔵とともに巡らす数々の陰謀を粉砕するため、一丸は家伝の「毒」を用いて悪に挑む……


 という基本設定の本シリーズですが、今回は、これまで二冊刊行された小説からの漫画化ではなく、完全新作というのが非常に嬉しいところであります。

 江戸で相次ぐ不審火。その火事が屋敷の周辺で起きたことを口実に大名たちを取り潰そうという動きに、水野の影を感じた広大院は、一丸に犯人の退治を命じます。
 手がかりもないまま探索を続ける中、火事現場で異様な目つきで炎を見つめる男を目撃した一丸は、飲み仲間の絵師から、その男がからくり師の太吉であると聞かされます。

 以前火付けで捕まったものの、何故かすぐに放免されたという太吉。彼こそが火付けの犯人だと確信する一丸ですが、しかし一丸の心の中には……


 恥ずかしながら作画担当の鳥野しのの作品は初めて読むのですが、フィール・ヤング誌などで活躍しているというその絵柄は、柔らかな線でキャラクターたちをくっきりと描いていて好感が持てます。

 実に本作は前後編構成とはいえページ数はそれほど多くはないのですが、原作のレギュラーキャラ――一丸、広大院、一丸の弟の上総ノ介、ヒロインの雅弥と小茶、飲み仲間の芳若と初信、水野と鳥居――を全員登場させているのですが、そのいずれもイメージどおりのビジュアル・描写であったと感じます。
(特にむくれている小茶が猛烈にかわいい)

 もっとも、ゲストキャラの太吉が、初登場時からあからさまに変態めいたビジュアルだったのはひっかかりますし、物語的にもかなりストレートな内容だったという印象はあります。
 しかし――それがかえって、一丸のキャラクターを掘り下げる形となっているのがまた面白いのです。

 絵を生み出す絵師でありながら、同時に人の命を奪う暗殺者という二面性を持つ一丸。
 彼の行う暗殺は、あくまでも正義のために外道を討つというものではありますが、しかし殺人――それも絵師としての己の技を利用した――であることには変わりありません。

 だとすれば、同じく己の技を用いて火付けを行う太吉と彼にどのような違いがあるのか?
 本作はある意味合わせ鏡のようなキャラクターを配置することにより、一丸の立ち位置を問いかけるのです。お前は正義の味方なのか、人殺しの外道なのか――と。
(ここで太吉による火事の炎の姿に、一丸が絵師として心動かされているという描写があるのも面白い)

 もちろん本作はその先にある一つの答えを、希望を提示するのですが――この辺りの巧みな物語構成はさすがは、と言うべきでしょう。


 今回は電子書籍化記念ということで発表された本作。しかし物語も画も、原作ファンを十分満足させるものであるだけに、これだけで終わるのは勿体ないと思います。
 もちろん原作小説の方も含めて、またいずれ一丸と仲間たちに会いたい――そう強く感じた次第であります。


『御用絵師一丸』(鳥野しの&あかほり悟 ヤングアニマル 2017年 No.18,19掲載) No.18 Amazon /No.19 Amazon


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