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2017.11.03

紅玉いづき『大正箱娘 見習い記者と謎解き姫』 「箱」の中の謎と女性たち

 創刊2年の間にユニークな作品を次々送り出してきた講談社タイガ。その中でも私好みの一冊――大正時代を舞台に、新米新聞記者と「開けぬ箱もなく、閉じれぬ箱もない」という謎の少女が様々な事件と対峙する、不思議な味わいのミステリにして「女性文学」であります。

 故あって実家を飛び出し、帝京新聞で埋め草の三文記事を書いている新米記者の英田紺。
 ある日届いた旧家の蔵で呪いの箱が見つかったという手紙の取材に出かけた紺は、そこで夫が自害したというその家の美しい嫁・スミからその箱を押しつけられることになります。

 箱の扱いに悩んだ末、上司に唆されて神楽坂にある箱屋敷なる館を訪れた紺。どこを歩いたか定かでない道を辿った末に現れた、文字通り箱のような形をした奇妙な館で、紺は回向院うららと名乗る美少女と出会うことになります。
 開けぬ箱はないという彼女は、女が触れば祟りがあるというその箱を平然と開けて……

 という第1話「箱娘」に始まる本作は、全4話構成の連作形式となっています。

「今際女優」:今際女優の異名を持つ女優と気鋭の脚本家が組んだことで話題の新作舞台。しかし脚本家は謎めいた死を遂げ、彼が完成させたという脚本の最終稿が行方不明となったことから、紺が二つの謎を解くために奔走することに。
「放蕩子爵」:時を同じくして起きた、悪事を暴き立てる怪人カシオペイアの跳梁と心中ブーム。不正を暴かれた家の一つで「文通心中」と呼ばれる不思議な死を遂げた娘がいることを知った紺は、自分の過去と重ねて真相を追いかける。
「悪食警部」:再婚して身重となったスミから再び手紙を受け取った紺。しかし再会したスミは、その直後に蔵の中で腹に刀を刺されて発見され、紺はその容疑者にされてしまう。そこに現れたのは、「悪食警部」の異名を持つ警視庁の警部だった……


 「箱娘」というと、どうしても「箱の中に収まっている娘」を連想してしまいますが、本作の箱娘・うららは、どんな箱も開け、閉じるという不思議な少女。
 神楽坂の屋敷に「叉々」というぶっきらぼうなお目付役らしい男と住んでいること、どうやら軍部や警察とも繋がりがあるらしいことを除けば、一切が謎の存在であります。

 そんな彼女が、これら4つの奇妙な事件を描く物語に登場する「箱」を開くことで、事件を解決に導くのが本作のスタイルですが――しかしその「箱」は、物理的なものに限りません。
 人がその心に隠し持った秘密、あるいはその身を閉じ込める一種の規範やしきたり――それもまた、開かれ、そして閉じられるべき箱として描かれるのです。

 そして本作で描かれる各エピソードには、「箱」以外には共通点があります。それは「女性」――いずれの物語にも、その「箱」を持つ者、あるいはその「箱」に閉じ込められた者として、女性が登場するのです。


 思えば舞台となる大正は、女性にとってはまだまだ非常に息苦しい、生きづらい時代であります。
 「新しい女性」、女性解放運動に身を投じる女性たちは登場したものの、しかしまだまだ彼女たちは少数派。世の大多数の女性は、家や女性らしさといった「箱」に閉じ込められていたのですから。

 そう、実に本作で描かれるのは、この閉じ込められた女性たち、あるいは女性たちを閉じ込めたものが生み出した事件であります。
 だとすれば、その事件を真に解決するのは、その「箱」を開ける――彼女たちを解き放つ必要があります。その結果、彼女たちが再び箱に戻るかもしれないとしても……

 本作は、ミステリとして見れば物足りないと感じる方もいるかもしれません。しかしこの構図を重ね合わせて見たとき、本作は一つの「女性文学」として、いずれも深く濃い味わいを持つのであります。


 そしてもう一人、本作には「箱」に閉じ込められた人物がいます。それは紺――ある意味、うららの最も近くにいる紺こそは、ある意味最も強く、そしてはっきりと「箱」に閉じ込められているのです。

 そこから紺が出ることはできるのか? その答えの一端は、本作の結末において静かに、そして感動的な形で示されているのですが――しかしそこで終わりではないでしょう。

 その結末は同時に、その先に何が待つのか見届けたい――そう感じさせる物語の開幕なのですから……


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大正箱娘 見習い記者と謎解き姫 (講談社タイガ)

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