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2017.11.07

入門者向け時代伝奇小説百選 児童文学

 入門者向け時代伝奇小説百選、今回は児童文学。大人の読者の目に止まることは少ないかもしれませんが、実は児童文学は時代伝奇小説の宝庫とも言える世界なのであります。
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

91.『天狗童子』(佐藤さとる) 【怪奇・妖怪】【鎌倉-室町】 Amazon
 「コロボックル」シリーズの生みの親が、室町時代後期の混乱の時代を背景に、天狗の世界を描く物語であります。

 ある晩、カラス天狗の九郎丸に笛を教えて欲しいと大天狗から頼まれた笛の名手の老人・与平。神通力の源である「カラス蓑」を外して人間の子供姿となった九郎丸と共に暮らすうちに情が移った与平は、カラス蓑を焼こうとするのですが失敗してしまいます。
 かくて大天狗のもとに連行された与平。そこで知らされた九郎丸の秘密とは……

 天狗の世界をユーモラスに描きつつ、その天狗と人間の温かい交流を描く本作。その一方で、終盤で語られる史実との意外なリンクにも驚かされます。
 後に結末部分を追加した完全版も執筆された名作です。


92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋) 【古代-平安】【鎌倉-室町】【戦国】【江戸】 Amazon
 特に動物を主人公とした作品を得意とする名手が、神通力を持った白狐を狂言回しに描く武士の世界の年代記であります。

 平安時代末期、人間に興味を持って仙人に弟子入りした末、人間に変身する力を得た狐の白狐魔丸。人の世を見るために旅立った彼は、源平の合戦を目撃することになります。
 以来、蒙古襲来、南北朝動乱、信長の天下布武、島原の乱、赤穂浪士討ち入りと、白狐魔丸は時代を超え、武士たちの戦いの姿を目撃することに……

 神通力はあるものの、あくまでも獣の純粋な精神を持つ白狐魔丸。そんな彼にとって、食べるためでなく、相手を殺そう戦う人間の姿は不可解に映ります。そんな外側の視点から人間の歴史を相対化してみせる、壮大なシリーズです。

(その他おすすめ)
『くのいち小桜忍法帖』シリーズ(斉藤洋) Amazon


93.『鬼の橋』(伊藤遊) 【怪奇・妖怪】【古代-平安】 Amazon
 妹が井戸に落ちて死んだのを自分のせいと悔やみ続ける少年・小野篁。その井戸から冥府に繋がる橋に迷い込んだ彼は、死してなお都を守る坂上田村麻呂に救われます。
 現世に戻ってからのある日、片方の角が折れた鬼・非天丸や、父が造った橋に執着する少女・阿子那と出会った篁は、やがて二人とともに鬼を巡る事件に巻き込まれていくことに……

 六道珍皇寺の井戸から冥府に降り、閻魔に仕えたという伝説を持つ篁。その少年時代を描く本作は、彼をはじめそれぞれ孤独感を抱えた者たちが出会い寄り添う姿を通じて、孤独を乗り越える希望の姿を、「橋を渡る」ことを象徴に描き出します。
 比較的寡作ではあるものの、心に残る作品を発表してきた作者ならではの名品です。

(その他おすすめ)
『えんの松原』(伊藤遊) Amazon


94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子) 【SF】【戦国】 Amazon
 児童向けの歴史ものを数多く発表してきた作者の代表作、遙かな時を超える時代ファンタジー大活劇であります。

 戦国時代、忍者の城・八剣城が謎の魔物たちに滅ぼされて十年――捨て丸と名前を変えて生き延びた八剣城の姫・花百姫は、かつて八剣城に仕えた最強の八忍剣らを集め、再び各地を襲う魔物たちに戦いを挑むことになります。
 戦いの最中、幾度となく時空を超える花百姫と仲間たち。自らの命を削りつつも戦い続ける花百姫が知った戦いの真実とは……

 かつて児童文学の主流であった時代活劇を現代に見事に甦らせただけでなく、主人公を少女とすることで、さらに情感豊かな物語を展開してみせた本作。時代や世代を超えて生まれる絆の姿も感動的な大作です。

(その他おすすめ)
『うばかわ姫』(越水利江子) Amazon
『神州天馬侠』(吉川英治) Amazon


95.『送り人の娘』(廣嶋玲子) 【怪奇・妖怪】【古代-平安】 Amazon
 死んだ者の魂を黄泉に送る「送り人」の後継者として育てられた少女・伊予。ある日、死んだ狼を甦らせた伊予は、若き征服者として恐れられながらも、病的なまでに死を恐れる猛日王にその力を狙われることになります。
 甦った狼、実は妖魔の女王・闇真に守られて逃避行を続ける伊予。やがて彼女は、かつて猛日王に滅ぼされた自分たちの一族に課せられた宿命を知ることに……

 児童文学の枠の中で、人間の邪悪さや世界の歪み、そしてそれと対比する形で人間が持つ愛や希望の姿を描いてきた作者。
 本作も日本神話を踏まえた古代ファンタジーの形を取りつつ、生と死を巡る人の愛と欲望、そしてその先の救済の姿を丹念に描き出した、作者ならではの作品です。


(その他おすすめ)
『妖怪の子預かります』シリーズ(廣嶋玲子) Amazon
『鬼ヶ辻にあやかしあり』シリーズ(廣嶋玲子) Amazon



今回紹介した本
天狗童子 (講談社文庫)源平の風 (白狐魔記 1)鬼の橋 (福音館文庫 物語)忍剣花百姫伝(一)めざめよ鬼神の剣 (ポプラ文庫ピュアフル)送り人の娘 (角川文庫)


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 「白狐魔記 源平の風」 狐の瞳にうつるもの
 「鬼の橋」 孤独と悩みの橋の向こうに
 「忍剣花百姫伝 1 めざめよ鬼神の剣」 全力疾走の戦国ファンタジー開幕!
 「送り人の娘」 人と神々の愛憎と生死

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