« 三好昌子『京の絵草紙屋満天堂 空蟬の夢』 絡み合う人情と伝奇サスペンス | トップページ | 週刊朝日「2017年歴史・時代小説ベスト10」に参加しました »

2017.12.26

寺沢大介『ミスター味っ子 幕末編』第2巻 激動の幕末にあの強敵登場!?

 あまりの異次元の組み合わせに仰天し、そしていざ読んでみれば(作中に登場する料理同様)その美味さに感嘆させられた『ミスター味っ子 幕末編』の第2巻であります。相変わらず勝海舟によって幕末に召喚される味吉陽一ですが、いよいよ時代は激動の渦へ。そして陽一の前にもとんでもない強敵が……

 いかなる理由か、寝ている間に幕末にタイムスリップするようになってしまった陽一。どうやら、海舟が空腹になると呼び出されるようになってしまったようですが――しかしそのタイミングが、いずれもやっかいな事件が起きたときばかり。
 かくて陽一は、海舟の腹を満たすだけでなく、その料理で歴史を揺るがしかねない大事件を解決することに……

 と、何ともすっとぼけた設定の本作ですが、第1巻のラストのカレー勝負で登場した堺一馬も同じくタイムスリップするようになり、坂本龍馬ともどもレギュラー入りと、何とも賑やかな展開に。
 もうタイムスリップするのが当たり前になってしまったのも愉快ですが、しかし時代の流れの激しさは、笑い話ではありません。

 この巻の冒頭で描かれるのは、徳川家茂上洛のエピソード。三代将軍家光以来の上洛となった家茂ですが、しかし二百年前とは違い、攘夷を巡って朝廷相手に厳しい舵取りを迫られる局面であります。
 朝廷に対し、攘夷の無意味さを――時に応じて海外のものを取り入れることの大切さを説こうとする家茂と海舟ですが、しかし勅使は、彼らの前にある菓子を出します。

 それは洋酒に漬けたドライフルーツを埋め込んだ羊羹。わざわざ海外のものを取り入れるまでもないと勅使に豪語させしめたその羊羹を作った者こそは、宮中の料理を司る御厨子所預・村田源壱郎……
 と、ここで味っ子ファンであれば激しいリアクションで驚くことでしょう。味っ子で村田と来れば、言うまでもない味皇様。そう、ここに登場したのは、あの味皇・村田源二郎――のご先祖様ではありませんか!

 陽一にとっては良き師であり、そして越えるべき高い高い壁であった味皇。その先祖が相手とくれば、盛り上るのはもう当然。しかもそこにかかるものが、日本の行く先であるとくればなおさらです。
 ここで陽一が一見料理とは無関係なところで得たヒントから、意外極まりない、しかし食べた者を猛烈に感動させる料理を創り出して――というのは定番の展開ながら、このシチュエーションもあって冒頭から盛り上がりは最高潮なのです。

 そして陽一との勝負の末、自分たちも新たなる料理道を行くべきことを悟った味皇様が、これまたどこかで見たようなおっちゃん(のたぶん先祖)を相手に、その想いを語るのですが……
 それを表す言葉がまた味っ子ファンであれば感涙必至のもので、いやはや素晴らしいサービスなのです(冷静に考えると、何言ってるのこの人!? ではあるのですが)


 そしてこの先も物語は――陽一が目撃する歴史の流れは、禁門の変、四ヶ国艦隊下関砲撃、薩長同盟と勢いを殺すことなく突き進んでいくことになります。
 しかしここで描かれる歴史は、一見学習漫画的「正しい」歴史かと思いきや、龍馬がグラバーと組んで日本の内戦状態を煽り(新たなものを生み出すためとはいえ)更なる混沌を生み出そうとするなど、なかなかユニークかつ毒を含んだものであるのも面白いところであります。

 それゆえさらにややこしい状況となっていくのですが――それでも陽一が少年としてのの、そして料理人としての純粋な視点から、こうした状況と、それに翻弄されていく人々に対峙しようとする姿が実に清々しい。
 ここに本作が描かれる一つの意義があるのではないか――というのは言いすぎかもしれませんが、単なる色物ではない確とした味わいが感じられるのは間違いありません。


 そして思わぬ成り行きから薩長の料理勝負に巻き込まれることとなった陽一と一馬。その前には、この時代の天才少年・少女料理人が登場して――とまだまだ盛り上がる本作。

 味っ子ファンはもちろんのこと、一風変わった幕末ものを求める方は是非味わっていただきたい名品であります。


『ミスター味っ子 幕末編』第2巻(寺沢大介 朝日コミックス) Amazon
ミスター味っ子 幕末編 2 (朝日コミックス)


関連記事
 寺沢大介『ミスター味っ子 幕末編』第1巻 味吉陽一、幕末に現る!?

|

« 三好昌子『京の絵草紙屋満天堂 空蟬の夢』 絡み合う人情と伝奇サスペンス | トップページ | 週刊朝日「2017年歴史・時代小説ベスト10」に参加しました »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/66195604

この記事へのトラックバック一覧です: 寺沢大介『ミスター味っ子 幕末編』第2巻 激動の幕末にあの強敵登場!?:

« 三好昌子『京の絵草紙屋満天堂 空蟬の夢』 絡み合う人情と伝奇サスペンス | トップページ | 週刊朝日「2017年歴史・時代小説ベスト10」に参加しました »