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2017.12.17

紅玉いづき『大正箱娘 怪人カシオペイヤ』 怪人と箱娘の間にある「秘密」

 新米新聞記者と「開けぬ箱もなく、閉じれぬ箱もない」という謎の箱娘が、様々な事件に挑む大正ミステリの第2弾であります。今回のメインとなるのは、サブタイトルのとおり隠された悪事を暴き立てる怪人カシオペイヤの謎。その正体とは、そして箱娘との関わりとは……

 帝京新聞の新米記者・英田紺が、ある日先輩記者の紹介で訪れた神楽坂の謎めいた屋敷で出会った、箱娘と呼ばれる浮世離れした美少女・回向院うらら。
 謎めいたうららの知遇を得た紺は、「箱」絡みの事件に次々と巻き込まれ、そしてうららの助けを得て、事件を解決し、そこに秘められた真実を明らかにしていくことに……

 そんな設定を踏まえて展開する第2弾は、全3話構成の物語であります。
 万病に効くと評判の「箱薬」を求める異国の血を引く少年と出会った紺が、箱薬を巡る狂奔に巻き込まれる第1話。
 怪人カシオペイヤからの予告状が届いた伯爵邸に居合わせた紺が、そこで起きた猟奇殺人事件と、悍ましい真実に対峙する第2話。
 怪人カシオペイヤに狙われているという新薬の発表パーティーに潜入した紺の眼前で薬の開発者が怪死。怪人の犯行が疑われる中、ついにカシオペイヤの正体の一端が明かされる第3話。

 そしてこれらの物語の中心となるのが、冒頭で述べた怪人カシオペイヤの存在です。
 前作の第3話にも登場したこの怪人、予告状を送りつけて世を騒がす一種の劇場型犯罪者ですが、彼が奪うのは金銀財宝ではなく秘密――それも悪事の秘密。その目的も正体も、一切が謎に包まれた仮面の怪人なのです。

 そして世の新聞記者同様、紺もその動向と正体を追っているのですが、本作でに彼女はついにその謎の一端に迫ることになります。
 それは時村子爵の三男・燕也――前作の同じく第3話に登場し、ある事件を巡って紺と激しくぶつかり合った青年。傲岸不遜で、その力を他人に振るうことを躊躇わない彼が、再び、いや三度、カシオペイヤの影のあるところに現れるのであります。

 果たして彼がカシオペイヤなのか? 紺は彼に翻弄されながらも、謎に近づいていくのですが――その最中に彼女は、横暴な燕也の隠された側面を知ることになるのです。


 と、前作が「市井の怪事件」を中心としていたのに対して、より大仕掛けな――後述のある描写によってその印象はさらに強まるのですが――連続物語となった感のある本作。
 キャラクターの方も、前作では厭な奴という印象の強かった燕也が様々な形で活躍したり、うららは一歩下がった出番となったり(もっともそれが彼女らしいのですが)物語の印象は前作から少しく変わったようにも感じられます。

 しかし、本作で描かれるのが、「箱」に秘められたものであることは、前作から変わるところではありません。それが前作の「女」から、「出自」に変わったとしても。
 そう、本作の物語の背景には「出自」にまつわる様々な人の想いがあります。生まれつき変えられぬ肉体的特徴、生まれつき変わらぬ身分――そんな持って生まれてしまったものを厭い、離れ、変えたいと願う人の想いが、物語を動かしていくのです。

 そしてしばしば秘め隠されるその想いは、「秘密」として怪人カシオペイヤの標的となるものであります。そして、「箱」を開く箱娘と「秘密」を暴く怪人カシオペイヤ――紺を挟んで、その両者がある種合わせ鏡のように存在しているのは、何とも興味深いことではありませんか。
 しかしもちろん、両者の目指すところは大きく異なると感じられます。本作で語られたカシオペイヤのそれは、ある種極めて現世的なものであり、浮き世離れした箱娘とは対極のものなのですから。

 しかしそれではその「世界」とは何なのか? 実はこの点において本作は、とんでもない「秘密」の存在をほのめかすことになります。そんなものがあるとは全く予想もしていなかったようなものを……
(それが、近現代を舞台とした作品にはよくある措置によるものだと思っていたものに絡めて語られるとは!)


 カシオペイヤがその「出自」にまつわる「秘密」を暴く側にあるとすれば、それと対する側と縁浅からぬように見える箱娘とは何者なのか――ここに来て一気にその姿を変貌させてきたようにも感じさせられる本作。

 そしてその物語の中で、紺はいかなる位置を占めることになるのか――それが彼女と彼女の「箱」に如何なる意味を持つのか。先が全く見えないだけに、大いに気になる物語となってきました。


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