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2017.12.04

日野真人『殺生関白の蜘蛛』 平蜘蛛と秀次を結ぶ驚愕の時代伝奇ミステリ

 全く予想もしないところから、素晴らしい作品が現れることがあります。『アラーネアの罠』のタイトルで第7回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞の本作はまさにそんな作品――松永久秀が秘蔵したという名器・平蜘蛛の茶釜と、関白・豊臣秀次の最期を結びつける、見事な時代伝奇ミステリであります。

 秀吉に仕え、今は秀次付きの家臣として暮らす舞兵庫。ある日秀吉に呼び出された彼は、「本物の」平蜘蛛の茶釜を持つと称する者が現れたことを告げられ、その入手を厳命されることになります。
 実はかつては松永久秀に仕え、その最期の時に平蜘蛛の茶釜を手土産に秀吉に寝返った過去を持つ兵庫。しかしその平蜘蛛が偽物であると言われた彼は、老耄の天下人の怒りを恐れつつ、探索に乗り出すことになるのでした。

 が、その矢先に今の主である秀次に呼び出されて先年に切腹した千利休が遺した平蜘蛛の切型(絵図)を見せられ、やはりその探索を銘じられる兵庫。
 時あたかも再びの朝鮮出兵が目前となった上、秀吉に待望の男児が生まれて、太閤秀吉と関白秀次の不仲が噂される頃。その二人の間に挟まれることとなった彼は、どちらにつくかも決めかねながら、真の平蜘蛛を持つという男を追うことになります。

 秀次付きの武人・大山伯耆とともに探索を続ける中、幾度となく謎の刺客に襲われる兵庫。そして一癖もふた癖もある者たちを向こうに回しながら探索を続ける二人は、松永久秀の隠された過去と、平蜘蛛に秘められた恐るべき力を知ることに……

 果たして平蜘蛛の力は、太閤と関白の争いに如何なる役割を果たすのか。両者の対立が深まる中、兵庫は驚くべき真実を知ることになるのです。


 そんな本作のユニークな点は幾つもありますが、まず挙げるべきは、主人公となるのが、舞兵庫(前野忠康)である点でしょう。あるいはむしろ歴史ゲーマーの方がよく知るかもしれない彼は、後に石田三成の下で、島左近と並ぶ猛将として知られた人物なのですから。

 その彼がかつて松永久秀に仕えたというのは、そこで果たした役割も含めておそらくは架空の設定ではないかと思いますが、三成の前に秀次に仕えていたのは紛れもない史実。
 本作でも大きな役割を果たす三成は、秀次に対しては悪役として描かれることも少なくありませんが、その三成が、兵庫のような(そして大山伯耆も)秀次の遺臣を引き取っていたというのは、何とも興味深いことではありませんか。

 そしてその兵庫を探偵役にした物語で描かれるのが秀次の最期というのは、本作のタイトルの「殺生関白」から察することができますが、しかしそれに大きな意味を持つのが「蜘蛛」――すなわち平蜘蛛の茶釜という取り合わせの妙には、ただ唸らされるほかありません。

 あの信長が引き替えに久秀の助命を認め、そして久秀はそれを拒否し、火薬を詰めて壮絶な爆死を遂げたという逸話で知られる名器・平蜘蛛。
 それが密かに持ち出されて秀吉に渡っていたというだけでも胸が躍ります、実はそれが偽物で、本物の在処を巡って秀吉と秀次が暗闘を繰り広げるとくれば、素晴らしいとしか言いようがありません。

 しかもその正体というのが……! と、それをここで書くわけにはいきませんが、その秘密が秀次の運命に密接に繋がり、さらには――という展開は唸らされっぱなしでありました。。
 正直に申し上げれば、ミステリ味はもの凄く強いというわけではない(どんでん返しは用意されてはいるものの、実は意外性は低め)のですが、ミステリ味のある時代伝奇小説として、かなりのレベルにある作品であることは間違いありません。


 それにしても本作のアイディアもさることながら、これだけの要素を破綻なくまとめ、さらに歴史小説としても読ませる(クライマックスで描かれる、秀次と三成の「合戦」は名場面!)手腕は、とても新人の手によるものとは思えない……
 と思いきや、実は作者の日野真人は、『銭の弾もて秀吉を撃て』(同作で第3回城山三郎経済小説大賞を受賞)などを発表した指方恭一郎の別名義(というより本名)と知り、さてこそは――と納得。

 思わぬ一人二役(?)に驚きつつも、新たな名を得た作者のこれからの活躍に、期待しないわけにはいきません。


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