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2017.12.18

芝村涼也『楽土 討魔戦記』 地獄絵図の向こうの更なる謎の数々

 『素浪人半四郎百鬼夜行』の芝村涼也による新たな時代怪異譚の第二弾――人間から変化し人間を喰らう異能の鬼と、それを斃すべく戦う人間たちの死闘を描く物語は早くも佳境。この戦いに巻き込まれてしまった少年と、戦いの存在に迫る同心のさらなる物語が展開することになります。

 身寄りをなくし、ある商家に奉公することとなった少年・一亮。しかし彼の日常は、ある晩突然、店の主人夫婦が奉公人を皆殺しにし、そして自分たちも謎の男女に殺害されたことから終わりを告げることになります。

 実はその男女――健作と桔梗、そして一亮を救った僧侶の天蓋は、人間社会に潜む「鬼」を討ち滅ぼす討魔衆の一員。人が「芽吹く」ことにより変化する異形異能の鬼を、彼らは表に出ぬように始末していたのであります。
 そして惨事から逃れたのが、鬼の存在を察知する能力を持っていた故であったことが明らかになった一亮は、彼らの一員に加わることになるのでした。

 一方、一亮が生き延びた一件をはじめとして、数々の奇怪な事件を担当することとなった南町奉行所の老練な臨時廻り同心・小磯は、一連の事件の陰に繋がるものがあることを悟ります。
 経験で培った勘と卓抜した推理力、そして執念で、ついに新たな惨劇の場である向島百花園に駆けつけた小磯は、その現場で、一亮と一瞬の遭遇を果たすことに……


 人の世に跳梁する人ならざる者と人知れず戦う人々というのは、時代ものに限らず、伝奇ものでは定番のシチュエーションの一つであります。
 本シリーズもまた、そうした構図を踏まえた物語ではありますが――しかしユニークな点は、その戦いを、戦いの最前線に立つ討魔衆の視点からではなく、その一員となったとはいえまだよそ者に近い一亮と、鬼と討魔衆の存在も知らぬ小磯という、外側の視点から描くことでしょう。

 そしてその視点と、そこから生まれる地に足のついた感覚は、特に本作の前半――小磯が中心となるパートに顕著であります。
 前作のラスト、百花園で起きた事件の後始末に始まり、新たに起きた少女拐かしへと繋がるこのパートは、もはや完全に奉行所ものの呼吸なのが実に面白いのであります。

 与力同心岡っ引きたちが事件解決に向けて燃やす闘志だけでなく、無関係とされた過去の事件を掘り返されることへの恐れや忖度、さらには帰宅してからの平凡な日常まで……
 そんな数々の要素を交えて描かれた物語は、「普通の」奉行所ものと何ら変わらないだけに、かえってその先の非日常的な怪異の世界を際だたせるのです。
(特に途中に一亮らのチームと拐かしの犯人である鬼との戦いが挿入されることもあって、その印象はさらに色濃く感じられます)

 そしてその一方で、本筋とも言える討魔衆パートも、前作よりもさらにパワーアップ。
 小磯らの追求が迫ったこともあって、一時的に江戸を離れた天蓋チームと一亮は、大飢饉により地獄絵図と化した奥州路に向かうこととなるのですが――その途中、飢えに苦しむ者たちを救うという楽土の噂を聞くことになります。そして、一亮の導きもあって、その楽土にたどり着いた彼らが見たものは……

 周囲の飢餓地獄が嘘のようなその楽土に隠された秘密がなんであったか――それは伏せますが、そこにあるのは更なる地獄絵図と、さらに物語の根幹に迫る謎の数々である、とだけは申し上げられます。
 そしてその先には、更なる謎と、悲劇の予感があることも……
(更に言えば、本作のモチーフを想像すると色々と考えさせられるものがあるのですが)


 意外な真実の一端と新たな謎が提示されて終わることとなる本作。上で述べたそのスタイルも含めて、大いに引き込まれてしまったのですが――その一方で、隠された世界観がなかなか明かされないことに、隔靴掻痒の印象があることは否めません。
 また、前半の小磯パートと、後半の一亮パートで、物語の繋がりが一端断たれることに違和感を感じないでもありません。

 もっともこれは、上に述べた本シリーズの魅力を生み出す基本構造とは表裏一体のものであり、むしろそのもどかしさや違和感をこそ、狙って描いていると言うべきかもしれませんが……

 何はともあれ、本作の不穏な結末をみれば、いよいよ物語が大きく動き出す日も近いと感じられる本シリーズ。数々の謎の先に何があるのか、そしてそこで一亮が、小磯が何を見るのか――心して見届けたいと思います。


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楽土 討魔戦記 (祥伝社文庫)


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