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2017.12.24

山本 巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ』新機軸! 未来から始まる難事件

 東京と江戸で二重生活を送るヒロインが、怪事件解決に奔走する「八丁堀のおゆう」シリーズ第4弾は、これまでとはいささか趣を変えた物語。現代で発見された葛飾北斎の未発表肉筆画の真贋を巡り、江戸で調査に当たることになったおゆうが、思わぬ連続殺人に巻き込まれることになります。

 祖母が遺した家で江戸時代へのタイムトンネルを見つけたことから、江戸時代での二重生活を送ることになった優佳(おゆう)。
 平凡な元OLの彼女も、持ち前の推理力と、分析ラボを営む友人・宇田川の科学力で名探偵に早変わり、江戸では南町奉行所の定町廻り同心・鵜飼伝三郎に十手を預けられた女親分として活躍するのであります。

 そんな本シリーズですが、今回は意外な場面からスタートすることに――近日オープンする「東京青山美術館」の目玉の一つ、葛飾北斎の未発表の肉筆画に贋作疑惑が持ち上がり、宇田川のラボに持ち込まれたのです。

 売り手が買い主に対して記した由来書きが添付されていたこの画。この画にはかつて贋作が作られたものの、これは本物なので安心してほしい――というような、逆に安心できないこの書き付けがあったことから、この画が本物か贋作か、頭を抱えていた美術館のスタッフ。
 状況から見て、この画が描かれたのはちょうどおゆうが江戸で暮らすのと同時代、だとすれば北斎本人に真贋を確かめることもできるのではないか――そんなずいぶん乱暴な宇田川の発想で、おゆうは江戸に向かうことになります。

 しかしおゆうが調査を始めた途端、画を扱った仲買人が何者かに殺害され、さらに彼と組んで贋作を描いていたという女絵師までもが死体で発見。
 悪いことにどちらもおゆうが関わった直後に殺された上に、何故北斎の画を探っているか、伝三郎にも話せない(話しようがない)おゆうは、伝三郎にまで不信の目で見られ、思わぬ窮地に陥ることになります。

 そこで北斎の娘・阿栄の思わぬ助けを得たおゆうは、疑いを晴らし、真贋を解き明かすために事件を追うのですが……


 これまでは、江戸時代に訪れていたおゆうが事件に巻き込まれるという導入であった本シリーズ。正直なところ、スタート時には目新しかったこのスタイルも、巻を重ねてくると当たり前になってしまった感があったのですが――なるほどこう来たか、と本作の導入は好印象です。

 過去からではなく、現代の(つまり過去から見れば未来の)出来事がきっかけで始まる事件というのは、これは本作のような設定でなくては描けない物語。
 しかもそれが理由で、おゆうが伝三郎に真実を語りたくても語れず、シリーズ始まって以来の窮地に陥るという展開になるのが、実に面白いのであります。

 さらにこれまでのシリーズでは、現代の科学力で謎を解き明かしたとしても、それを
江戸でいかに辻褄が合うように説明してみせるか――という面白さがあったのですが、本作ではそれとは逆パターンの展開。
 江戸で明らかになった真実を如何に現代で説明するか(しかもえらい豪快なアイディアでそれを解決!)、非常に新鮮な気持ちで最後まで読むことができました。

 そして本作に用意されている更なる新機軸は、阿栄とその父の北斎という、歴史上の人物が物語に大きく関わることでしょう。

 これまで、江戸時代を舞台としつつも、歴史上の人物や史実とはほとんど関わってこなかった本シリーズ(設定年代が明記されたのも初めてでは……?)。それはそれで理由があることかと思いますが、しかし折角(?)のタイムスリップなのだから、という気持ちがあるのは否めません。

 それが今回は、当然と言えば当然ながら、北斎の存在が大きく関わる内容なのが実に面白い。さらに阿栄の、おゆうとある意味対等に話せる人物というこれまでいなかったキャラクター造形が実に魅力的なのであります。

 そして贋作にまつわる事件の二転三転する謎解き、さらに事件を引き起こした複雑でそしてもの悲しい人間の心の綾なども印象的で――正直に申し上げて、これまでのシリーズで最も魅力的な作品であったと感じます。


 これも毎回恒例の、ラストで明かされる伝三郎の胸中が、こちらは今ひとつ盛り上がらないのが少々残念ではありますが、タイムスリップ時代ミステリとして、本作がシリーズに新たな魅力をもたらしたことは言うまでもありません。
 読み終わった後、カバーを見返してまたにっこりとできる――そんな快作であります。


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