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2017.12.13

サックス・ローマー『魔女王の血脈』 美しき魔人に挑む怪奇冒険譚

 一定年齢層以上のホラーファンにとっては懐かしい国書刊行会のドラキュラ叢書――その幻の第二期に予定されていた作品、『怪人フー・マンチュー』シリーズのサックス・ローマーが、奇怪な魔術妖術を操り行く先々に災厄をまき散らす魔青年の跳梁を描く、スリリングな怪奇冒険小説であります。

 著名なエジプト研究者を父に持ち、類い希な美貌と洗練された物腰で周囲の女性たちの注目の的である青年アントニー・フェラーラ。父同士が親友同士であったことから、幼なじみとして育ったロバート・ケルンは、彼が時折部屋に籠もって何かに耽っているのに不審を抱きます。

 やがて、ロバートの周囲で次々と起きる奇怪な事件と、不可解な人の死。フェラーラの父までもが命を落とす中、ロバートに現実とは思えぬ奇怪な現象が襲いかかります。
 医師であり隠秘学の泰斗である父により、すんでのところで救われたロバートは、フェラーラが奇怪な魔術の使い手であり、その力で様々な人々を犠牲にしてきたことを知ります。

 父とともにフェラーラの凶行を阻むために立ち上がったロバート。しかし彼らをあざ笑うように跳梁し、犠牲を増やしていくフェラーラの魔手は、やがてロバートの愛する人をも狙うことに……


 かのラヴクラフトが、評論『文学と超自然的恐怖』でその名を挙げている本作。冒頭で触れたように、実に40年ほど前に邦訳を予告されつつも果たされなかった、ある意味幻の作品であります。
 それがこのたび、古典ホラーの名品を集めたナイトランド叢書で刊行(こちらも第二期なのは奇しき因縁と言うべきか)されたことから、ようやく手軽にアクセスできるようになりました。

 その本作、発表は1918年と、ほぼ一世紀前の作品ですが――さすがは、と言うべきでしょうか、今読んでみてもほとんど色あせることなくエキサイティングな作品であります。
 何よりも印象に残るのは、本作の闇の側の主人公とも言うべきフェラーラの造形でしょう。美女とも見紛う容姿で周囲の人間を魅了し、次々と破滅させていく彼は、古怪な魔力を用いる邪悪の化身でありつつも、どこまでも洗練された「現代的」なキャラクターとして感じられるのです。

 さて本作は、そのフェラーラとケルン父子の対決を描く長編ですが、
ロバートがフェラーラの暗躍に気付く
→フェラーラを追うも術中にはまりかえって危機に
→間一髪で父に助けられる
→父子で反撃に転じるもフェラーラは逃げおおせた後
というパターンの連続。ケルン父子はほとんどフェラーラに翻弄されっぱなしなのであり――フェラーラこそが本作の真の主人公と言っても差し支えはないでしょう。

 しかし、上記のパターンを見ると、本作が単調な繰り返しに終始するように思われるかもしれませんが、心配ご無用。各エピソードでフェラーラが操る魔術は千差万別、幻覚から物理的力を持つ呪い、様々な使い魔による攻撃、さらには○○を用いた呪いとバラエティ豊かなのですから。

 そして、その良くも悪くも派手さを抑えた魔術描写は、作者が実在の魔術結社・黄金の夜明け団に参加していた故でしょうか。
 特に、中盤で展開するエジプト編の冒頭、疾病をもたらす奇怪な風に怯える人々が、風を避けて集まったホテルに奇怪なセト神の仮面を被った男が現れ――というくだりは、恐怖の実体を明らかにせず、雰囲気だけで恐怖を煽る作者の筆が実に見事で、本作の魅力がよく現れた、本作屈指の名シーンではないでしょうか。


 もっとも、本作にも困ったところは皆無ではなく、フェラーラの正体を知っている(らしい)ロバートの父が、毎回それをロバートに問われてもはぐらかして、終盤まで語らないのは、さすがに引っ張りすぎと感じます。
 また、ラストも、それまでの展開に比べれば、いささかあっさり目と感じる方も少なくないでしょう。

 とはいえ、終盤でついに語られるフェラーラの出自は、こう来たか! と大いに驚かされましたし、結末のある意味皮肉な展開も、強大な悪の魔術師の末路として、相応しい結末であることは間違いありません。

 怪奇冒険小説として、魔術小説として、一種のピカレスクものとして――今なお様々な、一級の魅力に満ちた作品であります。


『魔女王の血脈』(サックス・ローマー 書苑新社ナイトランド叢書) Amazon
魔女王の血脈 (ナイトランド叢書2-7)

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