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2017.12.11

鳴神響一『猿島六人殺し 多田文治郎推理帖』 本格ミステリにして時代小説、の快作

 これまでも一作ごとに趣向を凝らした作品を発表してきた鳴神響一の新作は、何と時代ミステリ、それも本格的な密室殺人もの。『影の火盗犯科帳』シリーズで知恵袋役を担当していた博覧強記にして多芸多才の浪人・多田文治郎が探偵役をつとめる本格ミステリであります。

 浪人の気楽さで江ノ島・鎌倉見物に出た文治郎が今回巻き込まれたのは、猿島――かつて流罪となった日蓮上人を島の猿が助けたという伝説を持つ小島で起きた殺人事件。
 地元の住民からは不入の聖地とされていたこの島に、江戸の大商人が建てた豪勢な寮(別荘)が事件の舞台となるのですが――これが常識では考えられないような奇怪な惨劇だったのであります。

 布団の中で焼死体となっていた老武士、無数の蜂に襲われて悶死した浪人、何かの刃物で首筋を裂かれた役者、矢で貫かれ目をくり貫かれた使用人、毒殺され切断された首を屋根に晒された妾、撲殺され血染めの文字を遺した囲碁棋士……
 身分も出自も年齢も全て異なる、共通点も不明な六人の男女が、そこでそれぞれ無惨に殺害されていたのであります。

 しかし現場は対岸から舟でなければ渡れない孤島、寮も周囲を断崖と塀で囲まれ、外部からの浸入は不可能という状態。
 そこで誰がどうやって、六人の男女を次々と惨殺し、姿を消したのか――この事件を担当することになった浦賀奉行所の与力・宮本甚五左衛門が偶然学友であったことから、文治郎は謎解きを依頼されることになります。

 そしてそんな不可解な状況の検分を行う中、文治郎と甚五左衛門が見つけた手記。犠牲者の棋士が遺したそれには、六人が何者であり如何に集ったか、そして島で何が起こったのかが克明に記されていたのですが……


 ミステリでいえば、クローズ・ドサークルものの一つ、孤島ものである本作。人の行き来が制限された、一種の密室となった孤島で事件が発生して――というあれであります。

 本作はその典型と言いましょうか、孤島に集った人々が一人一人殺されていくのですが――本作が面白い(という言葉が適切かはわかりませんが)のは、物語開始時点で、既に全員が殺されて発見される点でしょう。
 いきなり一切が不明な状況で、生存者なしの皆殺し! というインパクトは強烈で、一気に物語に引き込まれる構成の巧みさにまず感心させられます。

 もちろん、ミステリに肝心なのは事件そのものの謎解きですが、これも本作が作者の初ミステリとは思えぬ堂々たる内容。
 本作で描かれる、不可能としか思えないような六人六様の奇怪な殺人のトリックと、それらの凶行の犯人の正体は、どれも意外かつフェアなもので、本作を本格ミステリと呼んでも差し支えはないでしょう。

 また、文治郎による推理の前に、手記の形で経緯を語ることで、いわば証拠のみを先に提示した形(一部、後出し的に感じるものがなくもありませんが)で、一種読者への挑戦的な構造となっているのも楽しいところです。


 しかし、本作はそれのみに終わりません。文治郎の手で一連の事件のトリックが解き明かされ、犯人が暴かれてもなお残る謎――つまりハウとフーが解き明かされた先の、ホワイダニットにおいて、本作は優れて時代小説としての顔を見せるのです。

 これの詳細はもちろん語れませんが、終盤に明かされる犯人の動機――犯人が犯行に至るまでの経緯は、それ自体が一編の時代小説と成立するような内容。
 無惨な殺人の陰に潜む、それ以上に無惨な人の世の姿――一種の残酷な人情もの時代小説としても、本作は読むことができるのです。

 そしてその犯人の過去が、その動機そのものが、本作で描かれるような「劇場型犯罪」につきまとう不自然さ――そんな派手な事件を起こせば、かえって明るみに出て捕まりやすくなるのでは?――に対する、明確な答えになっているのには、脱帽するほかありません。
(ちなみに本作、実は犠牲者の多くが実在の人物なのですが――終盤の一ひねりでその点に整合性を与えているのは、作者の時代小説家としての生真面目さでしょう)


 ちなみに本作は、「幻冬舎時代小説文庫」ではなく「幻冬舎文庫」からの刊行。これは時代小説ファンに留まらず、一般のミステリ読者にもアピールするためのものと思いますが――その意気や良し。
 時代小説としてはもちろんのこと、ミステリとしても一級の魅力を持つ本作は、その試みに相応しい作品なのですから。


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猿島六人殺し 多田文治郎推理帖 (幻冬舎文庫)


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