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2017.12.23

藤田和日郎『黒博物館 キャンディケイン』 聖夜に博物館を訪れたもの

 これまで『スプリンガルド』『ゴーストアンドレディ』と発表されてきた藤田和日郎の伝奇奇譚、「黒博物館」シリーズが、クリスマスに再びその扉を開くことになりました。「モーニング」誌の35周年読み切り祭りの一つである本作――聖夜に黒博物館に現れた思わぬ来訪者を描いた短編であります。

 スコットランド・ヤードの中に開設された、犯罪の凶器や証拠品を展示した秘密の博物館――黒博物館(ブラック・ミュージアム)。
 一般人には公開されぬ博物館に収められた曰く付きの品々にまつわる奇譚を、金髪で左目を隠した美しい(ちょっと天然の気のある)キュレーターを狂言に描くのが、「黒博物館」シリーズであります。

 そんなシリーズの最新作は、一話限りの掌編。クリスマスの晩に、乱れたドレスのままで黒博物館に駆け込んできた美女にまつわる物語であります。

 本来であれば一般人には――それもクリスマスの晩には――開かれない黒博物館。しかし女性の求めるものが、ここに展示された「狼男」を殺すための銀の弾丸と拳銃とくれば、話は別であります。
 1852年の秋から冬にかけて3名を射殺した男、ジェイコブ・ベイカーの恋人であったという女性が語るには、ベイカーが殺した相手は狼男――銀の弾丸でなければ殺せぬ相手であったというではありませんか。

 いま、その狼男の仲間が自分を追っていると怯える女性を匿うキュレーター。一方その頃、「スコットランドヤードの機関車男」率いるヤードの警官隊は、多くの人間の命を奪った殺人鬼の行方を追っていたのですが……


 わずか22ページと、本当に短い作品である本作。しかし登場する題材やアイテムのおどろおどろしさや、キュレーターの思わぬ側面、そしてタイトルのキャンディケイン(クリスマスの飾りなどに使う杖の形をしたキャンディ)の使い方など、よくできた短編のお手本のような作品であります。

 うるさいことをいえば、狼男が銀の弾丸に弱いというのは20世紀の映画の副産物ですし、ジェイコブ・ベイカーというのは本作の創作ではないかなあと思いますが――小さい小さい。
 懐かしのキャラのゲスト出演というサプライズもあって、ファンにとってはまったくもって嬉しいクリスマスプレゼントというべき作品でありました。


 それにしても連載作品のほとんどが大長編の作者ですが、しかし中編・短編も切れ味の良い作品揃いなのは、ファンであればよくご存じのとおり。
 これからも本作のような作品をもっともっと読んでみたい――と、強く感じます。

 もちろんこれは大長編も並行して読みたい、という非常に強欲な願いなのですが……


『黒博物館 キャンディケイン』(藤田和日郎 「モーニング」2018年2・3号掲載) Amazon
モーニング 2018年2・3号 [2017年12月14日発売] [雑誌]


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