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2017.12.08

平谷美樹『江戸城 御掃除之者! 地を掃う』 掃除のプロ、再び謎と怪事件に挑む!?

 発表した作品の数とその個性という点では、平谷美樹は今年有数の活躍を見せた時代小説家ではないでしょうか。その個性を象徴するようなシリーズ――江戸城の掃除を担当する御掃除之者たちの活躍をコミカルに、ペーソス豊かにに描く物語、待望の第2弾の登場であります。

 その名のとおり江戸城の御殿の清掃等を担当した御掃除之者。その職務から察せられるように下から数えた方がよいような身分の御家人であります。
 本作はその一人、江戸城御掃除之者組頭の山野小左衛門とその配下たちの活躍を描く連作シリーズ。毎回のように掃除絡みで発生する意外な事件や厄介事に対し、彼らが持ち前の御掃除技とプロ意識で難題を解決していく姿が描かれることになります。

 例えば本作の最初のエピソード「楓山秘閣御掃除御手伝の事」の舞台は、楓山秘閣――将軍家の図書館、後世に言ういわゆる紅葉山文庫であります。
 そこに所蔵された本が紛失され、担当の御掃除之者が疑われかねない事態となったことから、前作で様々な事件を解決してきた小左衛門に紛失本捜索の指示が下ったのです。

 それが掃除之者の任かどうかは別として、同じ御掃除之者たちの運命がかかっているとくれば、無視するわけにもいきません。かくて、普通であれば全く無縁の紅葉山文庫の掃除を経験できるという職業的な興味もあって、小左衛門と6人の配下は紛失本捜索に乗り出すことに……


 ファンにとっては今更言うまでもありませんが、実はかなりの割合でミステリ的な趣向の作品を手がけている作者。前作もそうでしたが、特にこのエピソードは、ミステリ味が強い内容となっております。

 紛失本は、シリーズものの途中2冊のみが抜けた漢籍と、内容もわからない蘭書という、何とも共通性のなさそうな代物。果たしてそれらには何が書かれているのか。そして誰が、何のために持ち出したのか……
 その謎を、一つ一つロジカルに解き明かしていく様は、まさしくミステリの魅力に溢れています。

 そして書物の、何ともあちゃーな内容と、意外な持ち出し主の正体を解き明かしたその先で、事を荒立てぬための思いやりに満ちた作戦が展開されるのもいい。
 掃除之者をライバル視する黒鍬者との対決も絡んでくるのも楽しく、本作の約半分を占めるだけはある、ユニークにして爽やかな後味の一編です。


 そして本作の残る二つのエピソードも実に面白いのは言うまでもありません。

 まず「浜御殿御掃除御手伝いの事」で小左衛門が巻き込まれることになるのは、タイトル通り浜御殿(今の浜離宮)の掃除。
 江戸城担当の彼らからすればこれまた所轄外の事案ですが、既に掃除絡みの事件とくれば小左衛門、となっているために巻き込まれるのがなんとも哀しくも可笑しいのです。

 この浜御殿でうち続く魚の減少という怪事の解明を求められた小左衛門たちですが、謎の偉丈夫や怪生物が出没、何とも不穏な展開が繰り広げられることになります。
 そんな騒動の末に、この時代が舞台であればいつか出てくると思っていたあの人が登場、全てを攫っていくのもまた愉快なのであります。

 そしてラストの「中奥煤納めの事」は、これまでのエピソードと些か趣を変えた物語が描かれることとなります。

 日頃懸命に掃除を行い、時に怪事件を解決してと外では大活躍の小左衛門ですが、家に変えれば二人の息子との関係が悩みのタネ。
 そろそろ家を継いでもおかしくない年頃の彼らですが、しかし彼らは御掃除之者の役目に不満を抱き、小左衛門に対して反抗的だったり冷笑的だったり――という状況なのです。

 この辺り、世のお父さんたちには何とも身につまされる展開ではないかと思いますが――しかしこのエピソードでは、そんな状況に大きな変化が生じることになります。
 その一方で、思わぬことから江戸城の抜け穴の存在を知った凶賊の群れが、江戸城侵入を狙って――と、一見全く関係ない二つの流れが、思わぬ形で合流するクライマックスは、本作の掉尾を飾るに相応しい盛り上がりでしょう(結末の微笑ましさも実にいい)。


 というわけで、ラストで少しだけ未来に踏み出すことになる小左衛門ですが、もちろん彼ら御掃除ものが掃除する相手がなくなることはありません。
 だとすればこの先の物語も――と期待したくなるのが当然の快作であります。


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