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2017.12.25

三好昌子『京の絵草紙屋満天堂 空蟬の夢』 絡み合う人情と伝奇サスペンス

 『縁見屋の娘』で第15回『このミステリーがすごい! 大賞』優秀賞を受賞した作者の第二作――過去を捨て名を捨て、今は京で戯作者として暮らす男が、迫る過去の影から己と己の大切な者を守るために奔走する、伝奇風味も漂う時代サスペンスの佳品です。

 諸国を彷徨った末、京に辿り着いた月夜乃行馬。そこで懇意となった絵草紙屋・満天堂から京の案内本の執筆を頼まれた行馬は、挿絵師として京で一番の人気を誇る女絵師・冬芽に引き合わされることになります。
 目を引くような美貌を持ちながらも、人を寄せ付けぬ雰囲気を持つ冬芽に気圧されながらも、少しずつ打ち解けていく行馬。今度は絵草紙の執筆を依頼された行馬は、再び冬芽と組むことになりますが、やがて彼女の抱えた重い過去と現在を知るのでした。

 そんな中で行馬は、自分を尋ねてきたかつて国元で同じ役目についていた親友から、同じ役目についていた者たちが、次々と何者かに殺害されていると告げられます。
 かつて藩命で無数の命を奪った行馬たち。仲間の殺害はその時の恨みによるものではないかと考えた行馬ですが、やがて一連の事件には、いや彼の過去には大きを秘密が隠されていたことを知ることに……


 前作と同じく京を舞台とした作品、そして人情ものとしての性格を色濃く持ちつつも、同時にそれとは大きく異なる顔を――前作は伝奇ファンタジー、本作はサスペンス・ミステリ――持つ本作。
 その前者――人情ものの要素の中心となるのは、絵草紙屋を舞台に交錯する、行馬と冬芽を中心とする人々の姿であります。

 上で述べたように、刀を振るって数多の人を殺めた過去を持つ行馬と、道ならぬ恋に溺れ、今なおその残り火に苦しむ冬芽。
 その歩んできた道は全く異なりますが――しかしともに深い孤独と傷を抱え、今この時の平穏がかりそめのものでしかないと悟っている点で、二人は大きな共通点を持ちます。

 本作の主題の一つは、この二人の魂が次第に距離を縮め、そして傷を癒やしていく姿であり――それを時に静かに、時に真剣にに、あるいは時に賑やかに見守る周囲の人々の姿なのです(特に、妻に逃げられてアル中になった彫師の存在がなかなか面白い)。
 そしてそんな物語の中でも、個人的に特に印象に残ったのは冬芽の造形であります。

 運命のいたずらとはいえ、女性として、人間として大きな過ちを犯した冬芽。その傷を押し殺しながらも絵師として大成し、しかしその絵師としての未来も長くはないということに内心恐れおののく……
 自立した強い女性としての顔と、脆く弱い女性としての顔――そんな相反するものを抱えた彼女の姿は、ひどく生々しいものではありますが、しかしそれだからこそ非常に魅力的に感じられるのです。

 そしてそんな彼女の人間らしさが、半ば彼岸に踏み出しかけていた行馬を繋ぎとめるという構図もいい。
 特に決戦を前に、行馬が冬芽に残そうとした「もの」など、その内容もさることながらその形(そこに彫師の存在が大きな意味を持つのも巧い!)、そしてそれが必要になる理由ともども、実に泣かせるのです。


 そして、人情ものの部分が冬芽に代表されるとすれば、サスペンスの部分を代表するのは、もちろん行馬を巡る物語であります。
 過去に所属した場で犯した罪とその復讐、そしてそこに隠された秘密と陰謀という展開は、時代ものに限らずある種普遍的なものではありますが、そこに本作は「般若刀」というキーアイテムを設定しているのが面白い。

 かつて名匠が主のために打ちながらも、「斬れない刀」であったために怒りを買い、その刀で殺されたという曰くを持つ般若刀。
 以来、その刃に血を吸わせることを禁じられ、しかし行馬によって無数の血を吸うこととなった(「斬れない刀」を用いるための刀術が編み出されたという設定も、また非常に面白い)この刀は、様々な形で本作の中心に位置することになるのです。

 そしてそこに実は伝奇的な秘密が存在し、それがまた本作の人間ドラマと思わぬところで絡み合って――というのも実に面白い。
 尤も、この辺りは少々風呂敷を広げすぎたきらいもあって(特にその謎解きが少々反則気味だったこともあり)、個人的には大歓迎ながら少々さじ加減を誤ったかな、という点はあるかもしれません。


 そんなマイナス面はあるものの、物語の二つの側面が溶け合う様が実に魅力的な本作。
 正直に申し上げて、第一作を遙かに上回る完成度であり――作者には、このスタイルをさらに洗練させた作品をこの先も書いていって欲しいと、心より感じた次第です。


『京の絵草紙屋満天堂 空蝉の夢』(三好昌子 宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) Amazon
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