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2018.01.13

新井隆広『天翔のクアドラブル』第1巻 少年たちは欧州の戦場に旅立つ

 いまだ戦国の世であった天正年間、日本から遙かヨーロッパに渡った四人の少年――天正遣欧少年使節。その史実を踏まえつつ、四人の志能便(しのび)の少年がヨーロッパを席巻する悪魔たちを滅ぼすために海を越えるという奇想天外な物語の開幕篇であります。

 悪魔たちの跳梁により、暗黒の地と化したヨーロッパ。この事態を憂慮したイエズス会の宣教師ヴァリニャーノは、人知を超えた力を持つ日本の志能便たちをヨーロッパに送り込むことを提案するのでした。

 これに応えて志能便の里から選ばれ、勇躍海を渡ることになったのは、血よりも濃い絆で結ばれたのは以下の四人――
己の血を媒介に攻撃・回復様々な術を操る「呪禁」を究めた伊東マンショ
又鬼(マタギ)として鳥獣を駆使し射撃を行う「修験」を究めた千々石ミゲル
銃火器など科学知識を生かした発明を行う「機関(からくり)」を究めた中浦ジリアン
様々な能力を持つ付喪神を使役する「帰神」を究めた原マルチノ。

 海で襲い来る海賊たちを軽々と蹴散らし、最初の寄港地・マカオでは奇怪な二胡の調べで数多くの子供たちを連れ去った妖女を倒した一行。
 そして次なる寄港地・タイでは、思わぬ誤解から獄に繋がれることとなったマンショとミゲルが、そこで意外極まりない人物と出会うことに……


 歴史上名高い天正遣欧少年使節。しかしそのスケール――旅路の長さ故か、時代伝奇もので描かれることは非常に少ないように感じます。
 本作はその少年使節を、大胆にもそれぞれ異能の力を持つ孤児たちとして設定。そしてその目的も、ヨーロッパに蔓延る悪魔たちと対決するためなのですから、ユニークといえばユニーク、豪快といえば豪快であります。

 この第1巻は、この壮大な物語の設定紹介篇という印象も強く、冒険の中で、四人の少年たちそれぞれの能力が解説されることとなります(ただし原マルチノは第2巻での描写)。
 なるほど、わざわざ海を渡っての悪魔との戦いを求められるだけあって、彼らの力は絶大。志能便というよりは異能者というに相応しい彼らの暴れぶりはなかなかに痛快ですし、一歩間違えれば悲壮感漂う旅路も、少年故の明るさで中和しているようにも感じられます。


 しかし、本作が単純明快な冒険活劇であるかといえば、それはおそらく、いや間違いなく否、でしょう。なんとなればこの第1巻の時点でも、この旅が、そして少年たちが抱えたものが、決して単純でも軽いものでもないことは随所から伺えるのであります。
 それが最もはっきり描かれたのは、マカオでの戦いの中で描かれた、ミゲルとマンショの過去でしょう。

 志能便の里に来る前は、人買いに買われ、売り飛ばされたミゲルと、彼と同じ身の上であり、そして彼に救い出されたマンショ。
 海外だけではなく、戦国時代の日本においても行われていた人身売買をこのような形で少年漫画で描くことは珍しく、それだけに彼らの過去の物語は、かなりのインパクトを持ちます。

 しかし本作の凄みはそれに留まりません。その悲惨な境遇から逃れるための行為が生んだミゲルの罪――そしてそこから生まれる、マンショに対するミゲルの深い屈託が、物語に深い陰影を与えるのであります。

 先に述べたように――いずれもそれなりの身分を持っていた史実とは異なり――志能便の里で育った孤児である四人の少年。それは裏を返せば、彼らが戦争の申し子であるとも言えます。
 その彼らが、彼ら自身が語るように、戦うことしか教わっていない彼らが遠くヨーロッパにまで戦いに赴く。その物語が、明朗快活なだけで終わるはずがありません。


 本作の冒頭においては、ヴァリニャーノによる日本スゴイの賛美がいささか鼻につくのですが、どうやらこれも字義通りには受け取れない様子。
 その一方で、マカオでの二胡の妖女の過去にもほのめかされているように、単純にキリスト教を、ヨーロッパを是とするだけではない空気も漂います。

 果たしてその不確かな戦場で、彼ら四人が何を見るのか、何を得るのか――この第1巻のラストに登場した、とんでもない人物の真実も含めて、気にならないはずがありません。
 発売中の第2巻も、早々に紹介いたします。


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