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2018.01.09

大柿ロクロウ『シノビノ』第2巻 大乱入、狂気の天才!

 ペリーの黒船に潜入したという実在の忍び・沢村甚三郎を主人公とする忍者アクションの続巻であります。ペリー暗殺の命を受けて黒船に潜入した甚三郎ですが、そこに思わぬ男たちが乱入、事態は全く想定外の方向に転がっていくことに……

 浦賀沖に来航したペリー艦隊に対して幕閣が右往左往する中、老中・阿部正弘に招かれた最後の忍び・沢村甚三郎。事態を収めるためにペリー暗殺の命を受けた甚三郎は、着々と準備を整え、黒船への潜入に成功します。
 そこに待ち受けるは、日本攻撃の野望を秘めたペリーの秘密戦力「部外戦隊」。しかし甚三郎はその一人を軽々と粉砕し、ペリーの旗艦に向かうのでした。

 しかしここで、甚三郎も、ペリーも予想だにしなかった事態が発生することになります。黒船の来航に、大望の実現するとき来たれりと狂気――いや狂喜したある人物が、動き出したのです。
 その名は吉田松陰――言うまでもなく松下村塾の創設者として、維新の志士たちを数多く生み出した人物であります。

 この松陰、松下村塾設立に先立つこと3年前、渡米のため黒船に密航しようとするも失敗したという史実が確かにあるのですが――しかし本作の松陰は、それを踏まえつつも大変な人物として登場することになります。
 何しろ、確かに渡米のために黒船に乗り込んだものの、彼が求めたのは黒船に乗せてもらうことではなく、黒船を自分のものにすることだったのですから……!

 かくて、配下を引き入れた松陰は黒船乗っ取りのために行動開始。もうこの辺りの松陰は狂熱的――というより明らかに狂っているレベルですが、しかし多分にデフォルメされているものの、これはこれで実に松陰らしい。
 こんな松陰が見たかった、と言ったらさすがに怒られるかもしれませんが……

 そしてここでさらなるサプライズキャラが登場いたします。松陰の黒船乗っ取りの切り札として並み居る米兵相手に刀一本で大暴れする少年の名は藤堂平助――ってあの平助!?

 なんと松陰に心酔する少年として、ここで藤堂平助が登場。もちろん後の新選組八番隊長の平助ですが――史実では松陰との接点はなかったはず。
 実は新選組の隊長クラスの中でも前歴に不明な点が多い人物だけに、そこに本作の設定の余地があるのかもしれませんが、いずれにせよ、意外な人物の登場であります。

 そして、そんな松陰と平助の暴れっぷりは完全に主人公である甚三郎を食うほどのものなのですが――それは同時に、甚三郎の任務の重大な障害であることはもちろんのこと、この国の将来にとっても大きな危機が生まれたということでもあります。

 先に述べたように、本作におけるペリーの真の狙いは日本攻撃。さすがに問答無用で戦端を開くわけにはいかないものの、何かきっかけがあれば即座に攻撃を開始せんと、彼は虎視眈々と待ち構えていたわけであります。
 その前にペリーを――というのが甚三郎の任務であったわけですが、ここで松陰が黒船に攻撃を仕掛けたことで、ペリーは開戦の大義名分を得たことになったわけです。

 江戸攻撃が始まる前にペリーを討ち、任務を果たさんとする甚三郎。しかしもちろんペリーの部外戦隊が黙って見ているはずもなく(巨大な獣使いが現れたと思いきや、それが○○○○○○の獣だったのには驚いたり喜んだり)、そして平助が暴れ回る中、三つ巴の戦いが始まることに……


 上で述べたように、この巻では松陰たちに主役の座を奪われかねない状態だった甚三郎。しかしここでペリーたちとの戦いだけが描かれていたとしたら、物語が盛り上がったかどうかは疑問です。

 何しろ甚三郎は作中ではほとんど規格外の存在、部外戦隊を含めて艦隊一つを敵に回したとしても、あまり苦戦するような気がしない――というのが正直なところ。
 それはそれで良いかもしれませんが、しかしそれが面白いかといえば別なわけで――それが松陰と平助というこれまた規格外かつ想定外の連中が登場したことで、物語の先が全く読めなくなったことは大歓迎であります。

 そして先が読めないといえば、史実との繋がりであります。果たして甚三郎のペリー暗殺は成功するのか、ペリーは江戸を攻撃してしまうのか――どちらに転んでも史実とは大きくかけ離れた展開になるわけで、さてその整合性を如何につけようというのか?

 それはもちろん物語の先行きと密接に絡み合うものですが――ここまで広げた風呂敷を如何に畳んでみせるのか、大いに興味をそそられるではありませんか。


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