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2018.01.18

新井隆広『天翔のクアドラブル』第2巻 生きていた信長、戦国のメフィストフェレス!?

 紹介が遅れているうちに急転直下の完結ということになってしまい、ちょっと驚かされた天正遣欧少年使節異聞、起承転結の承から転にかかる第2巻であります。マレー半島で総督の牢に囚われてしまったマンショとミゲル。彼らは牢の中で、死んだはずのあの人物に出会うことになるのですが……

 悪魔が蔓延するヨーロッパを救うため、ヴァリニャーノに招請されて海を渡ることとなった4人の志能便の少年――伊東マンショ・千々石ミゲル・中浦ジリアン・原マルチノ。
 それぞれ呪禁・修験・機関・帰神の異能を持つ彼らの航海は、マカオを経てマレーに至ることになります。

 しかし上陸したマレーで、無実の罪で囚われ、牢に放り込まれてしまったマンショとミゲル。そんな二人の前に「オッサンだけど仲良くしてちょーだいな♪」と飄々とした態度で現れた先客、その名は織田信長……!

 という、さすがに予想だにしなかった展開から始まるこの第2巻。絶大な権力と富を持ち、恣に振る舞う総督の娯楽のため、3人は闘技場に引き出されて総督の配下と戦わされる羽目になるのですが――信長はさておき、志能便の2人が並の相手に苦戦するはずがありません。
 そんな彼らに対し、総督が向かわせたのは、卵から生まれた異形のドラゴン。さしもの2人も徒手空拳では及ばぬ相手を前に、しかし信長は喜びの表情を浮かべて……


 少年使節たちの師ともいうべきヴァリニャーノとは縁浅からぬ信長。そして信長生存説は、フィクションの世界ではもうお馴染みに近いところですが――しかし信長と少年使節との絡みはフィクションの世界でもほとんど見たことがないように思います。
 それが全く思わぬ形で飛び出してきた本作。その信長がマレーに現れた理由自体は非常にファンタジー的なものではありますが、この信長の、虚実正邪陰陽入り混じったような混沌とした人物像はなかなかに魅力的です。

 そして、少年たち――特にミゲルの過去の行動によって余命幾ばくもない身となっているマンショが心のなかに秘め隠したものを丸裸にし、奪い去ろうとする信長。
 その真意はまだまだ不明ではありますが、一種メフィストフェレスめいた姿は強烈に印象に残ります。

 さらに去り際にジリアンに対して残した言葉が、その先の展開に繋がっていくのもいい。
 4人の中ではひ弱な印象のあるジリアンですが、彼もまた親をなくして志能便の里に引き取られ、唯一の肉親である懸命に生きてきた少年であります。

 その彼の兄貴分として支えてくれたのがミゲルであり、そしてそのミゲルがマンショに対して深い罪の意識を持っているとすれば――なんとかしたいと考えるのは当然の成り行きでしょう。
(ちなみに彼の回想で、親が唯一残してくれた名前を捨てて洗礼名を名乗る行為が、彼の決意とミゲルとの絆の表れとして描かれる場面があるのですが――そこから感じられるある種の「居心地の悪さ」は、やはり狙って描いているものでしょう)

 しかしそれはミゲルをはじめとして、誰にも知られてはならない決意であり、また物語を複雑なものにするのが、実に意地悪くも面白いところなのであります。


 そしてその本作の一筋縄ではいかない複雑さが爆発するのが、次の寄港地であるインドはゴアであります。
 既に悪魔の撒き散らした呪いである黒死病が蔓延し、死の大地と化したインド。そのインドでもヴァリニャーノの恩人がいるゴアに急ぐ一行ですが、そこで彼らを待っていたのは、思わぬ惨劇の姿でありました。

 ゴアの聖職者たちを襲い、無残に殺害していったのは、本当にその現場にいた信長なのか。そしてジリアンの悩みが、彼が抱えた秘密が一行の足を引っぱる形となって……
 というのは定番の展開ではありますが、しかしこれまで積み上げてきた物語の(背後に見え隠れする)不穏さが、そうと感じさせないのも巧みであります。

 そして再びヴァリニャーノを襲う信長たちの真意はどこにあるのか。残るはおそらくあと2巻、不穏極まりない折り返し地点の先に真実が見えたとき、本作の真の姿が見えるのであります。
 まずは2月発売の第3巻で語られるものを楽しみにいたしましょう。


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