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2018.01.17

都戸利津『嘘解きレトリック』第3-5巻 人の中の嘘と本当を受け止める少女の成長

 昭和初期を舞台に、人の嘘を聞き分ける能力を持つ少女・鹿乃子と貧乏探偵・左右馬のコンビが様々な事件の中の嘘を解いていく連作シリーズの第3巻から第5巻の紹介であります。左右馬とともに様々な人々と出会う中、鹿乃子にも変化が……

 人の言葉の中の嘘を聞き分ける力故に、周囲から嫌悪の目に晒されてきた鹿乃子。両親に迷惑をかけまいと九十九夜町に出てきた彼女が出会ったのは、貧乏だが驚くべき洞察力を持つ青年・祝左右馬でした。
 成り行きから一緒に事件を解決した鹿乃子は、自分の能力を知り、そしてそれを自然に受け容れてくれた左右馬の助手として探偵事務所に住み込むことになるのでした。

 というわけで、鹿乃子が左右馬を助けて難事件を次々と解決していく姿を描く本作――と言いたいところですが、二人が真面目に事件に挑むエピソードが少ないのが、むしろちょっと楽しい。

 何しろ左右馬は貧乏のくせに大の怠け者で、その月の家賃さえ払えれば後は働きたくないという男。そのため、偶に来た依頼にも(家賃を払った後は)露骨にイヤな顔をするという困った人物なのであります。
 それゆえ、二人が巻き込まれる事件も、いきおい「日常の謎」的なものが多くなるのですが――しかしそれが本作の緩やかで温かいムードとよく似合います。


 が、そんな二人が珍しく大事件に挑むことになるのが、第3巻に収録された長編「人形殺人事件」であります。

 両親を亡くし、人里離れた屋敷で、自分の成長に合わせて作られた人形たちと暮らす少女。その屋敷の女中が崖から落ちて死んだのですが――彼女は死の直前、人形を殺してしまったと怯えていたのでした。
 家賃が払えず夜逃げの途中、左右馬の親友の姉で雑誌記者の雅と出くわしたことから、彼女の助手として屋敷を訪れた二人は、そこで事件の真相を追うことに……

 と、人里離れた屋敷・奇怪な風習・謎の美少女と、ザ・探偵小説的なこのエピソード。
 正直なところ事件自体はかなり豪腕な真相なのですが、それを嘘を見抜くはずの鹿乃子の能力が逆にミスリードするという展開が実に面白いのです(そして左右馬が気付く真相の伏線がまたフェアなのが素晴らしい)。

 そして何よりも、事件を解決した後に明かされる真相を生み出した巨大な「嘘」と、そこから救済の姿が、実に本作らしい清々しさなのであります。(特にラスト1ページに描かれた嘘からの解放の美しさ!)


 そして続く第4巻・第5巻は日常の謎を描く短編エピソードが主体で、コミカルさとハートウォーミングさのブレンドも絶妙な、キャラクターものとしても楽しいお話揃い。
 その一方で、孤島での殺人事件や、老婦人の生き別れの孫探しといった、比較的ストレートなミステリもキッチリ用意されているのも心憎いところであります。

 しかし、そんなバラエティに富んだ物語に共通するのは、人の心の中の嘘と本当の存在――そしてそれを受け止め、人を信じることの意味を鹿乃子が学んでいく姿であります。

 嘘を見抜く能力があるということは、本当を知ることができるのイコールではありません。そしてその能力があるからといって、相手を信じられるわけでもありません。
 それは事件に対する鹿乃子の能力の位置づけにも当てはまるものですが――同時に事件に挑む中で、そのことを知り、向き合うことによって鹿乃子が少しずつ成長していく姿が、本作の最大の魅力であると感じます。

 そしてそんな鹿乃子の成長譚の集大成が、第5巻に収録された、彼女の母との再会のエピソードであります。

 冒頭に述べたように、両親のためにも家を出た鹿乃子ですが、それは彼女が親を捨てたわけでも、その逆でもありません。
 むしろ互いを思うが故の行動だったのですが――しかしもしその想いが嘘であったら、それを知ってしまったらという悩みが、両者の間に、微妙な距離を開けていたのです。

 しかしこのエピソードにおいて、鹿乃子が、その母親が知ったものは――それを巧みに導く左右馬の存在もまた実にいい――ここで鹿乃子の物語は一区切りと言ってよいのではないかとも思います。


 その一方、第5巻のラストでは、鹿乃子の能力に気付いているらしい謎の美青年「史郎」が登場。果たして彼の正体は――と、一つの大きな物語としても、この先が気になるところです。


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