« ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』 古代の魔女王を巡る謎と怪奇と「愛」 | トップページ | 中村理恵『JIN−GAI』 人気歌舞伎役者が挑む怪奇の事件 »

2018.01.26

皆川亮二『海王ダンテ』第4巻 新章突入、新大陸で始まる三つ巴の戦い

 超古代の「書」の力によって異能を発揮する英国海軍の若き士官ダンテことホレイショ・ネルソンの活躍を描く海洋伝奇活劇ももう第4巻。この巻からは舞台をオーストラリアに移し、ナポリオ率いるフランス軍や死の眠りから覚めた海賊女王との戦いが始まります。

 アメリカ大陸での冒険から数年、中尉に昇進したダンテは、4年前に発見された新大陸オーストラリアへ、流罪人の護送と航路の調査を行うという新たな任務を与えられます。

 航海にはオーストラリアを発見したキャプテン・ジェームズ・クックその人も加わり、無事目的地に到着したダンテたち。しかしそこではナポリオらフランスが一足先に上陸し、石油採掘基地を建設して傍若無人に振る舞っていたのであります。
 さらにナポリオの兄・ジョゼによって甦ったスカンディナビアの女王アルビダがダンテを襲撃。前巻に登場したオルカの助っ人で辛うじて難を逃れたダンテとクックですが、ナポリオを野放しにできるはずもなく……


 南極、インド、アメリカときて、今度はオーストラリアと、世界の全大陸を制覇する勢いの本作。アメリカ編では小ピットがゲストキャラとして登場しましたが、今回は日本ではさらに有名なクック船長が登場するのが、まず嬉しいところであります。

 このクック船長、いわゆる史実上の業績については作中で解説されていますが、初登場シーンなどで、陽気で身分に拘らない自由な人物という、本作ならではのキャラクターを見せてくれるのがまず楽しい。
 その一方で、彼は、自らの発見がオーストラリアを害する結果になりかねないことに対して、強い責任感と罪の意識を抱く人物としても描かれます。それが、ダンテのメンターにしてバディ役として行動する理由となっているのも巧みなところでしょう。

 そしてバディと言えばもう一人、前巻で強烈な印象を残した自由人、不死者の青年海賊・オルカが、助っ人として実に格好良いところを見せてくれるのも、これまた嬉しいところであります。

 さらに今回の敵の一人であるアルビダも、かつて深く動物たちを愛し、そして自由を求めて国を捨て海に出たという生前の記憶を強く残した、単純な悪役とは言えない造形となっているのが印象に残るところです。
(にしても、本来ラスボス格でありながら、復活させた海賊たちに振り回されるジョゼが実に可笑しい)

 もちろんアクションの方も、ダンテの操る書の力や、ナポリオのオーバーテクノロジーはもちろんのこと、動物を自在に操る能力を持つアルビダの大暴れもあり、皆川作品ならではのダイナミックなビジュアルが続出。この巻も、これまで同様の楽しさがある、と言いたいところですが……


 しかし少々引っかかったのは、ナポリオとフランス軍の存在であります。

 作中で互いに呆れ、嘆くように、ダンテが行く先々に現れては、悪事を行っているナポリオ。
 この宿命のライバル同士の対決が物語の太い柱である以上、それは当然の展開なのかもしれませんが――しかしこうも続くとさすがにどうかという印象はあります。

 しかしそれ以上に引っかかるのは、(少なくとも現時点においては)植民地主義の強い負の側面を、ほとんどフランス側に押しつけているように感じられる点であります。
 あるいはそれは、ダンテが主人公でありナポリオが悪役という、描写の都合であるかもしれませんが――しかしイギリス側も何ら変わることはなかったのもまた史実でしょう。

 もちろんイギリス側にも非があることは、これまでも何度も描写されているところではあり、特に今回ダンテは強い反省の弁を口にするのですが、さてそれが実を持ったものとしてこの先描かれるのかどうか。
 この物語の時点から十数年後に始まるイギリスの入植が、オーストラリアに何をもたらしたのかを考えれば、いささか複雑な想いに駆られるところであります。


 もちろん、このオーストラリア編はまだ半ば。この先に何が描かれるか、ダンテやクックの想いが、物語をどこに導くのかはわかりません。
 それがこれまで同様、人の善性と希望を感じさせるものであることを祈りつつ、第5巻を待ちたいと思います。

|

« ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』 古代の魔女王を巡る謎と怪奇と「愛」 | トップページ | 中村理恵『JIN−GAI』 人気歌舞伎役者が挑む怪奇の事件 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/66311296

この記事へのトラックバック一覧です: 皆川亮二『海王ダンテ』第4巻 新章突入、新大陸で始まる三つ巴の戦い:

« ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』 古代の魔女王を巡る謎と怪奇と「愛」 | トップページ | 中村理恵『JIN−GAI』 人気歌舞伎役者が挑む怪奇の事件 »