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2018.01.24

琥狗ハヤテ『ねこまた。』第4巻 彼にとっての「家」、ねこまたにとっての「家」

 軒に一匹、必ず一匹。それは人を見守るだけ、けれど確かに存在している――そんな不思議な存在「ねこまた」。常人には見えないそのねこまたたちを見ることができる――どころか五匹ものねこまたに囲まれて暮らす岡っ引きの仁兵衛の日常を静かに、暖かく描く四コマシリーズの最新巻であります。

 京の町にその人ありと慕われる名岡っ引きながら、いつも独り言を呟いていることから、「ささめ(つぶやき)の親分」というあまり有り難くない渾名で呼ばれる仁兵衛。
 実はその身に一匹(さらに家には四匹)のものねこが憑いている彼は、常人には見えないそのねこまたに話しかけているだけなのですが……

 何はともあれ、言葉は喋れず、周囲のものに触れることはできず、上に述べたように普通は見ることもできない存在ながら、人の側に確かに居るねこまた。
 猫に似ているけど猫じゃない(今回、改めて図解されているのが非常に可笑しい)、基本的に非常にかわいいけれども、ちょっと不気味なねこまたに囲まれて、今日も仁兵衛は元気に暮らしているのであります。

 というわけで、ある意味「日常系」の四コマ漫画である本作。それゆえこの巻もまた、非常に内容を紹介しにくいところではあります。
 しかし夏の暑さに秋の紅葉、冬の寒さなどなど、その季節ならではの風物と不思議なねこまたたち、そして仁兵衛親分のやりとりは、変わらない空気感だからこそ、実に心地よく、尊さすら感じさせられます。

 ねこまたたちが居る家が住む者に安らぎを感じさせるように、というのはいささか格好良すぎる表現かもしれませんが……


 しかしこれまで同様、この巻においても、四コマだけでなく、数ページに渡る長編エピソードが収録されています。
 その一つは、前の巻で初登場した浪人・三好――お尋ね者を斬ってその首にかけられた賞金で暮らす流れ者であり、そしてその三度笠には白ねこまたが憑いているという謎の男の、過去の物語であります。

 かつては歴としたさる藩の侍であった三好。その彼が、何故血腥い渡世に生きる浪人となったのか――ここで描かれたその物語は、ある意味、この世界には(=時代ものでは)ごくありふれたものであるかもしれません。

 しかしそれは三好にとって、ここにしかない彼にとっての「家」が永遠に失われてしまったということであります。武士にとってそれがどれだけ重いことであるか――彼が自らを野良犬と自嘲する姿からは、それが痛いほど伝わってきます。
(ちなみに、この巻で、彼が「新しい砥石を買わねば」と独りごちることで、その背後の出来事を想像させる描写には、大いに唸らされました)

 しかしその一方で――いささか奇妙なことではあるかもしれませんが――彼の「家」は、まだまだ失われていないのかもしれない、とも感じさせられます。
 かつては彼の家に憑いていた白ねこまた。そのねこまたが、彼の三度笠に憑いて(もっとも三好はそれを知らないのですが)共に旅を続けているということは、ある種極めて象徴的に感じられるのですが――それはセンチメンタルに過ぎる見方でしょうか。

 しかしそれを承知の上でも、そうあって欲しいと思ってしまうのは、やはり本作がどこまでも優しさを感じさせる物語であるからでしょう。
 そしてそれが三好にとっての優しさでもあって欲しいと――この巻を読んで改めて感じさせられました。

 この巻のもう一つの長編、仁兵衛の家に憑いた四匹のうち二匹の過去を描いた物語のラストカットを見れば――それは偶然の相似なのかもしれませんが――なおさら、そう感じさせられるのであります。


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